ほとけすまいる 仏像の工房 

ほとけすまいる 仏像の工房 

仏師 鈴木謙太郎のブログです
仏像制作や仏像彫刻教室 木菩りの会の活動を載せています

観音像の修復作業を進めていました。

もともと木地仕上げの像に新たに彩色を仕上げてあり

見た目には新しい観音像です

 

施主様が大切に守ってこられた仏像であり、その思いに応えるべく、私も一手一手に心を込めて作業に向き合いました。
 

経年による乾燥収縮や環境変化の影響で

表面に細かな亀裂が生じていました

まず行ったのは、亀裂の状態と深さの確認です

単なる表層の割れか、構造的な影響を及ぼすものかを見極めるた光の角度を変えて観察し、必要に応じて細い探針で内部の状態を確認しました。

 

中央に亀裂 


補修には、像の材質と経年変化を考慮した調合の木粉を用いました。

木粉は同種の木材から採取した微粉末を使用し、

充填後は、乾燥を待ってから慎重に研磨し、周囲と違和感が出ないように整えました。
補彩の際に元の色味や筆致を再現するよう努めました。

 

彩色後


 

このような作業は、単なる修復ではなく、像に込められた祈りや時間を尊重する営みです。

木地の状態を見極め、適切な充填材を選び、色味や質感を整える工程は、まるで仏様と対話するような時間でした。

 

そして先日、無事に修復が完了しました。新たな命を吹き込まれた観音像は、以前にも増して静かな力を湛えているように感じられます。

年の瀬にこうしてひとつの仕事を納められたこと

そして大切な像を未来へと繋ぐお手伝いができたことに、

深い感謝の念を抱いています。

 

合掌

 

脇の下にも割れがありました こちらも修復完了しています

 

千手観音像の修復を行いました。

 

紛失していた合掌の手は、ヒノキ材で新たに彫刻し、

古色彩色して風合いを揃えています

 

既存の腕部との接合には、内部に竹釘で芯を通し、安定性と耐久性を確保しました。

 

両足先の欠損部も同様に補作し、足裏の接地面を調整することで、像全体の重心が安定するよう配慮しました。

 

本体のぐらつきは、台座との接合部を再構築し、内部の緩み木片で補強。

 

光背は、脱落していた部分を慎重に再接着し、隙間が無くなるよう微調整を重ねました。

 

厨子の前傾は、底部の歪みを調整しました。


とりわけ、合掌する姿を再現できたことは、

像に宿る祈りのかたちを取り戻す瞬間でした。

 

厨子の内部にはびっしり院号と名が入っており

時を越えて人々の願いを受け止め続けてきた証であり、

欠損の中にも祈りは息づいていました。

修復とは、形を整えるだけでなく、祈りの記憶にそっと寄り添うものと感じております。


十一月、木々は静かに葉を落とし、空気は澄み、光は柔らかくなります。

千手観音像が再びその場に立つとき、季節の静けさがその姿を包みこみ

再び祈りの記憶を紡いていくことでしょう

このブログを見てくれた方にも、穏やかな余韻が残りますように

 

合掌

 

 

 

袖ヶ浦・喜光院教室の会員さんによる釈迦如来坐像が完成しました。

 

仏壇用の坐3寸

柔らかな木の香りがまだ残るほど彫りたて。細部に宿る集中力と祈りが、手に取るように感じられる素晴らしい仕上がりです

 

蓮華座や光背の繊細な装飾は、時間と手間、そして「仏を彫る」ことへの真剣な想いが刻み込まれています。
 
難しい部分も多かったはずですが、
一彫りごとに心を込めて仕上げられた姿に、教室のみなさんも温かな眼差しを注いでいました
 
干支彫刻も着実に進み、教室には静かな年の瀬の気配が漂い始めています。
 

師走が近づき、教室では恒例の干支彫りが始まりました。来年の干支は「馬」。まっすぐに走り抜ける姿は、努力と前進の象徴です。生徒の皆さんも、それぞれの思いを込めて刀を握り、木の中から力強く優しい馬の姿を浮かび上がらせています。


最初は木の塊にすぎなかったものが、少しずつ形を帯びていく過程には、不思議な静けさと喜びがあります。木と心が通い合う瞬間を感じながら、皆で集中して彫り進める時間は、まるで祈りのようです。

一年を振り返れば、教室にも新しい仲間が加わり、互いに学び合い、励まし合う姿がありました。仏像彫刻に携われる日々、そして共に歩む皆さんとのご縁に、心から感謝いたします。

新しい年が、馬のごとく力強く、穏やかに駆け抜ける一年となりますように。
合掌。


糸鋸の音が、静かな工房に響いています。
今年も残りわずか。次の年の干支をかたどる季節になりました。
ヒノキの香りに包まれながら、ひとつひとつの材料を馬の姿に切り抜いていきます。

朝の空気はひんやりとして、手に触れる木肌が少し冷たい。
進めるたびに木の中から命の気配が立ちのぼるようで、心はあたたかくなります。

年の瀬に向けて工房も少しずつ慌ただしくなりますが、こうして木と向き合う時間だけは変わらず静かです。

干支を彫るたびに、めぐる歳月の早さと、その中に変わらずある祈りの形。
来る年もまた、穏やかに笑顔で迎えられるように――
そんな願いを込めながら。