高級食パンブームの立役者として一躍時の人となったベーカリープロデューサー岸本卓也氏の著書です。
最初に言っておくと私は岸本氏のことを評価していません。
高級食パンブームは「乃がみ」などが火付け役であって、ブームとなったパンを作り出したのは岸本氏ではなく、各店で提供されるパンもコッペパンなら岩手県の福田パンというような地方で有名なパンのアレンジに留まり、0から何かを生み出したわけではありません。
奇抜な店名で耳目が引くことは間違いありませんが、ブームの背景には皆がこぞって食べたくなるパンがあったはずで、それは岸本氏の手柄ではありません。故に岸本氏をもてはやす風潮が嫌いでした。
とはいえ、ビジネス書はもれなく読もうの精神で本書も手に取りました。


本書では岸本氏流のマーケティング、ブランド戦術が解説されていますが、正直その手法の効果は怪しいと思っています。ブーム下という状況下でさらに頭一つ抜きんでるための戦略という意味では正しいのでしょうけど、これがしっかり地域に愛されるための条件かと言われるとそうではないでしょう。
そういう視点でいうと岸本氏はクリエイターではなく、プロモーターなんですよね。
独創的なパンは生み出せないけど、販売を増加する手法は追加できる。もっとも、平時であればあまり効果をなさないようなアイディア。
ださいデザインも突き抜けると格好良くなると解説されていますが、ダサいはダサいままです。
これにデザイン料とられるのだとしたら、私が経営者側なら普通に嫌ですね…


ただ、私も「どんだけじこちゅー」では食べましたが、正直なところ味は良いんですよ。
好みはあると思うけど、甘さがあるパンという意味では美味しいほうだと思います。
すでに閉店した店もあるものの、意外と今でも健闘しているというか、氏のプロデュース店が残っているのは本書ではほとんど解説がない味の要素が大きいのだと思います。
実際本書に登場する店をネットで検索しても意外と生き延びていました。
もちろん同じブランド名で複数店舗に広げていた場合には、2店舗目以降は閉店して最初の1店舗目だけ生き残っているようなパターンもありましたが。


私の場合は最初から氏に否定的なスタンスなため本書を読んでも、心に響くものは何一つありませんでした。音楽にこだわっているというのも、私からするとパンを買うのにごちゃごちゃとうるさいだけというくらい拒絶してしまっています。
氏を嫌いでない人ならまた違った感想を抱けるかもしれません。
「乃が美」について書かれた『奇跡のパン 日本中で行列ができる「乃が美」を生んだ「超・逆転思考」
』と合わせて高級食パンブームを振り返る資料としての価値ならあるかもしれません。