前田又左衛門利家也。
先日、暖かな墨国〔メキシコ〕より帰名致したが、日ノ本の朝晩は又一段と冷えるのぉ。
木々の葉も赤く頬染めし此の季節、儂は好きじゃ。
然し乍〔しかしながら〕、皆々も景色に見とれて寒さを忘れ、冷えた体を壊さぬ様ようよう用心致せ。
さぁ、振り返れば八ヶ岳
墨国道中記。三日目。
日ノ本の民が珍しいのか、墨国の民は積極的に儂に話し掛ける者多し。
未確認飛行物体の目撃例が多いと聞く此の時期、朝も早うから一人異国の空を仰ぎ見乍目を凝らして居ると、一人の墨国の民が儂に話し掛ける。
ららららららららら。
うむ。全く解せぬ言葉の羅列。
致し方無いので、墨国の言葉と意味が数多載る本で交流を図る。
うむ。うむ。成る程。
墨国の民が儂に訊ねし事は、、、
貴殿は天竺〔インド〕の御方で御座いますか。
違わい。此方、四百年以上日ノ本の民で在る。
日ノ本にて異国の民に間違われる事多き儂も此れには参った。
妙案だ。天竺に参ろう。
捨て置き、先ずは腹拵え〔はらごしらえ〕の朝餉〔あさげ〕に致そう。
戦場に出でる際、満腹に致せば集中力と瞬発力、加えて覇気に欠けると申すが我等が時代の教え。
腹六分目。
斯様な考えで歩めば、眼前には現地人で溢れる茶屋が御座る。
中は何やら日ノ本で馴染みの 夜通し万屋〔コンビニ〕 の如き処も御座り、玩具の箱が至る処に積まれて居った。
うむ。此処で在らば、墨国への理解も深まろう。
入るや否や、茶屋の娘が茶は何が良いか訊ねる。
否、否。儂は腹を満たしたいだけじゃ。茶は不要。
日ノ本の言葉と、身体を十二分に使いし動作で訴えるも通じず。。。世知辛い。。。
食物は十数種類の中から己が自身で選ぶ仕組みが在るので其れを頼む。
然し乍、三つしか出て居らぬ。
茶屋の娘に訊ねると、未だ調理中の動作。
うむ。腹の虫が鳴く。
致し方無い。品書きを貰いて選び直す。
ぐぬ。字が読めぬ。
周りを見渡すと既に皆食事中。
ちぃと無礼では在るが、背に腹は代えられぬ。
厠に立つと思わせ乍、目星き物が無いか辺りを見回す。
むむ。緑の掛け汁で溢るる、何やら解せぬ料理を見つけたり。
此れだ。儂が求むは土地の味。何より食す者の表情が味を物語る。
信じようぞ。墨国の民よ。
得体の知れぬ此れこそ、食すべき料理。
茶屋の娘に同じ物を頼む。
入れ替わりに茶屋の頭が如き女子が儂に鮮やかな色合いの茶を差し出だす。
気が利くのぅ。茶を断りし身の上の此の儂に迄日ノ本でも馴染みのもてなし。先ずは茶で一腹。
此れには頭を垂れるしか在るまい。
高らかに、ぐらしあす〔忝ないの意味〕と叫ぶ。
茶屋の頭は朗らかに微笑みを返した。
早速、茶を頂こうと致した処で肝心な事に気が付く。
毒味役が居らぬ。
現世にて此の暮らしにも随分慣れたが、此処は異国の地。
否、否。何を疑う事が在る。又左衛門。先程、墨国の民を信じると決めた心は何処へ消え失せた。其方は己を曲げる男では無かろう。確と〔しかと〕致せ。
我が主、御館様〔信長様〕の声明が聞こえた。
有り難き幸せ。
己を戒めつつも、氷は避けよと誰ぞに聞いたが為、確と避けて頂戴致した。
蜜柑色に輝き、爽やかな香りを放つ此の飲物。微かな粒実を感ずる。。。
応。此れは蜜柑汁。
我が愚息 利長の好物も、確か蜜柑で在った。
むむ。むむむ。利長は山盛りの蜜柑を平らげ腹を痛めた事が在ったぞ。
此れは参った。
儂に代わりて天上にて暮らす利長に供えよう。〔蜜柑汁は某陣営の者が美味しく頂いた。〕
儂が一人騒いで居る処へ茶屋の娘が先程の緑の掛け汁で溢るる料理を運ぶ。
三叉小槍〔フォーク〕と小刀〔ナイフ〕を使いて食す様じゃ。
小刀を入れると湯気の中から玉蜀黍〔とうもろこし〕の粉で作りし生地に包まれた鶏肉が顔を出す。
此れを三叉小槍で突き刺し口に運ぶと。
む。美味じゃ。
牛の乳の如き味わいの掛け汁も、口に運ぶ毎に乾酪〔チーズ〕や鰐梨〔アボカド〕の味が面妖に広がる。
誠に美味為る食は人を黙らせる。
無心で頬張る我が心には春風が吹いた。
暫し〔しばし〕仕合わせの余韻に浸りて微睡む〔まどろむ〕も、戦の刻が迫る。
我乍、騒がしき客で在ったと茶屋の娘と頭に侘びを入れ、精一杯のぐらしあすで感謝を述べる。大儀ぞ。
二人は春の草木に勝る美しき笑顔で儂を見送った。
実に〔げに〕天晴れな茶屋に又しても墨国のもてなしを学ぶ事と成った。
さぁ、此度で墨国最後の戦場。
未だ見ぬ出逢いに期待致して、いざ出陣。
因みに、儂が食したは〔enchilada〕と申す料理。掛け汁は青唐辛子と青赤茄子〔通称 青きトマト、、漢字に致すとややこしや〕を白掛け汁〔ホワイトソース〕で混ぜたものだそう。鰐梨は入って居らぬそうじゃ。現地の案内人曰く、墨国でも人気の料理で大当りと申して居った。
墨国道中記、明日へ続く。
CBCラジオ主催 武士語2018
此方の大戦も気合い充分ぞ。
参陣申込み待って居る。
未だ見ぬ えまき~〔CBCラジオ 名古屋おもてなし武将隊 戦国音絵巻 リスナーの意味〕の皆々との出逢いも心待ちに致して居るぞ。
我等を支えし家臣で在る主等も、絡繰〔からくり〕にて呟き拡散の程、宜しゅう頼む。
主等の知人にも一人、二人と伝令致せば嬉しゅう御座るのぅ。
皆で此の大戦、勝戦と致そうぞ。
名古屋おもてなし武将隊 一番槍
前田又左衛門利家