2023年3月5日(日)
新潟市・新潟グランドホテル
9:00〜20:13
第48期コナミグループ杯棋王戦五番勝負第3局
渡辺明棋王対藤井聡太五冠が
新潟市・新潟グランドホテルを会場に行われ、
後手番の渡辺明棋王が174手で
藤井聡太五冠を破り勝利を飾った。
二転三転、
三転四転の攻防で
最後までどちらが勝つのか
全くわからなかった将棋だった。
AIの評価値では、
渡辺88、藤井12となった局面があったが、
そこから藤井が巻き返し、
さらには
渡辺99、藤井1となった局面から
藤井99、渡辺1と、再逆転し、
藤井が勝利を手にしようとした、そのとき、
今度は藤井が詰みを逃し、
渡辺99、藤井1と、再々逆転するという
まさに「人間vs人間」の死闘だったといえよう。
こんなことが起きるのか。
藤井の7七玉も驚いたが、
渡辺の5四角打の一手からの
藤井の9八角打の切り返しは
うぉおおおおおおーっ!と、
絶叫しそうになってしまった。(絶叫はしていないが。)
また、
渡辺がなかなか
4九角を打たずに、
「安全」な手を指しながらも、
藤井が渡辺玉を必死まで追い詰めるも、
2五歩を打たず、
2六飛と、桂馬を食いちぎった一手も、
これが
即詰みを逃してしまう一手となってしまった。
なんということだ。
結局、詰みまでは一歩足りず、
藤井の敗北となって
渡辺が凌ぎ切り、終局したのである。
果たして
この一手を
単純に
「ミス」という言葉で呼んでよいのであろうか?
多くのAbema視聴者が
「藤井のミス」と
コメント欄に書いている。
私は
この手は
「ミスではない」と考える。
「ミス」とは
平時に当たり前のようにできていることを
誤ってしまうことであり、
今回の藤井の一手は
「ミス」という表現で表せることではない
と考えるのである。
あえて言葉で表現するなら
「ポカ」という方が、
よりニュアンスが近いのではないだろうか。
藤井は
ミスをしたのではなく、
「ポカ」をしてしまったのである。
なぜならば、
あの局面は
当然、藤井も渡辺も
「初見」の局面である。
かつて、棋士たちが将棋を指してきた
数々の局の中で
一度も現れたことのない局面なのである。
その局面に対して、
それがたとえ15手詰みであろうが、
それを読み間違えたということは
それは「ミス」とは呼べないのである。
まさに、
「ポカをしてしまった」ということなのである。
そう。
「ポカ」とは、
誰もが普段の精神状態で
常識的な考えや行動であれば、
適切な対応をとることができる、ということを、
何らかの圧力や
プレッシャーがかかり、
心理的状態が平時とは違うものになってしまい、
適切だと思われる行動や結果に辿り着けなかったという
「想定外のこと」が起きてしまったということが
まさに
「ポカ」なのである。
今回は
それが
藤井に起きてしまった、ということだ。
もしかしたら
将棋というゲームにおいて
藤井聡太五冠に
このようなことは
かつて一度も起きていなかったのかもしれない。
まさにそれは
藤井聡太が「機械」や「コンピューター」ではなく、
一人の「人間だった」ということに
他ならないのではないだろうか。
人間だからこそ
想定外のことが起きるのである。
想定外のことが起きるからこそ
そこ「も」、
面白いのである。
AIが
渡辺に示した
3七桂打という局面も、
1分での考慮時間では導き出せなかった一手なのであり、
そこがAIと人間の思考の差であることは
何ら疑う余地もない。
ただ、
6四角の一手については、
普通の将棋素人が考えれば
8六角と王手に打つという一手が
容易に想像できるのであろうが、
そこは超一流の名人・棋王の二冠保持者なら
常人とは違う一手を発想できても
なんら不思議ではなく、
まさに過去の歴戦をくぐり抜けてきた
渡辺の思考の中から
放たれた一手なのである。
そしてまた、
それを切り返した
藤井聡太五冠の
9八角打も、
多くの視聴者を唸らせる一手であったといえよう。
さらに
その角筋を止める
8七歩までの一連の流れも
多くの視聴者を釘付けにしたのではないだろうか。
「渡辺棋王勝利」から
「逆転で藤井六冠の誕生」
という記事を書いて準備していたにもかかわらず、
最後にまたも
「渡辺が逆転勝利」
という記事を書くことになった
将棋記者や新聞記者らを
最後まで振り回した一局として
この新潟決戦は
記憶にも記録にも残る一局となったであろう。
今回の対局で使用された
二代目大竹竹風作の将棋駒は
錦旗という書体で書かれており、
駒の表情も豊かで、
駒音も清らかに響き渡る名駒であった。
そんな駒師が
新潟県三条市に居ることを誇りに思いたいし、
敬意を表したい。
それにしても最後まで難解だった
この一局は
もう一度棋譜を
自らの手で並べてみたいものである。
素晴らしい将棋を見せて、魅せていただき、
渡辺明棋王、および藤井聡太五冠には
最大の敬意を表したい。
夕食も食べずに、
眠気にも耐え、
まさに死闘と呼べる一局だった。
これからゆっくりと
絶品の新潟グルメを堪能してもらいたいものだ。
完