青春アドベンチャー9(誕生日付近)
バスの座席で私はあの王国での冒険に思いを馳せていた
「あれはあなたの物語なのです」
シェラザートがそう言った
だとしたら、あの王国はやっぱりあたしの中にあるのかな
あたしの中にラシードやミリアムやマスルールがいて
今ごろお祭りをしているのかしら
うーん、何だか象を飲んだうわばみになったような変な気分
でも、みんながあたしの中にいてくれるのなら
あたし、こっちでも冒険できそうな気がしてきたわ
バスの窓から見える街が今日はわけもなく素敵に見えた
王国の遍歴を終えたあたしは、バスに乗ってわが家へと帰還した。
青春アドベンチャー8
空の上
「何で、泣くの?」
この曲知ってる?
「知らない
What a Wonderful World
素敵な世界は何ですか?」
和美高校やばいんじゃないの?
「あ、分かったあれだ
何て何々なんだろうのWhatね
何て素晴らしい世界なんだろう?」
凄い直訳
「だから、何で泣くの?」
あんたのお父さんが好きだった曲
作ってくれたテープの一番最後に入ってた
「え、今のFAXって誰が?」
お化けのポスト・・・
「え、ひろちゃん、な、何を」
弘子ちゃんなんて呼ぶ人、一人しかいない
あるんだFAX。向こうにも
本当に
「ひろちゃん・・・」
本当に届けてくれた、俊平・・・
――――
「ね、どんな歌なの?」
何だっけな
太陽が輝き、鳥が歌い、子どもらが走り回っている
何て素晴らしい世界なんだろう、とかなんとか
「ふーん
あれ、雨止んでる
凄い、雲がどんどん動いてる」
見えた?月
「ねぇ、ひろちゃん、さっきしてたエンジンの変な音も
もしかしてお父さんが」
うん
「わぁ、綺麗
ちゃんとついてきてた、やっぱり」
ずっと近くにいたんだ
雲に隠れていただけで
――――
「夜走ってるといろんなことがあるんだね」
100年ぶり
「うん、何が」
泣いたの
「みんな幸せにって言ってたね
お母さんにも来てるかな、お化けのポストに」
来てるよ
「なんて書いてあるかなぁ」
あんたが届けなさい今度は
ちゃんと言えるのかねぇ、その大噓つきの口で
ほら、練習してみな
「おめでとう・・・」
全然聞こえない!
「おめでとう!」
青春アドベンチャー7 3週間ほど前
田舎の法事は、都会のそれに比べると
遥かに中身と気持ちがこもっている
内容的にも時間的にもやるべきことはきっちりとやり
和尚も決して手抜きなどしない
自宅の仏前、寺での墓前、位牌堂、本堂の4か所でお経をあげ
それぞれが手を合わせて焼香する
その間、死者の記憶が脳裏によみがえり
さまざまな思い出が心をよぎる
自分が生きていることの意味を
ふと考え込んでしまうのもこの時である
法事を終えた後は、参会者全員での酒宴となる
前回の法事の時には一緒に酒を酌み交わしたのに
今はもう亡き人が何人もいる
「今度会う時まで、お互いに元気でいましょうな」と言って別れながら
それっきりになった人も多い
4年後の叔父の17回忌には
また何人かの人が欠けているかもしれない
酔いの回った頭でそんなことをぼんやりと考えていると
向かいの席で飲み続けていた幸隆さんが
「法事は生きている人間の同窓会だで
仏さんはその同窓会を見るのが楽しみなんやき」
と問わず語りでつぶやいた
しばらく考えた後で
「そうかもしれない」と僕も思った
