NHK教育のETV特集『ネットワークでつくる放射能汚染地図』は昨今まれに見る優れたドキュメンタリーシリーズであるが、その最新番組『ネットワークでつくる放射能汚染地図6 川で何が起きているのか』を見た。昨年の3月11日の福島第一原発事故以後、環境中に放出された放射性物質が空間から土壌そして河川へと移動している様を描いている。中でもかつて深刻な水俣病の汚染に見舞われた阿賀野川流域からも高濃度の汚染が見つかり、ドキュメンタリー映画『阿賀に生きる』を撮り、2006年に惜しくも自殺で亡くなった佐藤真氏が天国でこのことを知ったらきっとふがいないわれわれ後輩を憤怒の相で怒るのではないだろうか?そしてもう一人、レイチェル・カーソンも天国で自らの警告から学ばなかったわれわれをどのように思うのだろうか?カーソンが晩年、医療関係者向けに行った『環境の汚染』という講演で環境に放出された汚染物質は、「生体の生物学的反応のなかに容易にとりこまれ(中略)投棄された場所にとどまることはほとんどなく、そのままの形で残ることもめったにない」と指摘した後で放射性物質に触れ、それが環境中に偏在し「ホットスポット」を形成すること、」さらには生物的循環に取り込まれて希釈どころか濃縮をし、次世代へと終わることなく引き継がれていってしまうことを警告している。これは、まさに現在、大気中に放出された放射性物質が土壌を経て河川、そして海へと、しかもそれは直線的に移動するのではなく、環境要因や科学的な要因により濃淡のまだらな、「ホットスポット」を描きながら、あたかも宮崎駿が『ナウシカ』で描いたような意志を持った粘菌のように移動している。そして現在、阿賀野川や阿武隈川流域でセシウムに親和力のある粘土質の土壌でなおかつ水が滞留する場所にその面妖な粘菌はへばりついているようなのだ。おそらくその狭所の「除染」は可能であろう。土壌をはぎ取り保管すれば良い。ただ、ここでカーソンの指摘を思い出してもらいたい。それは生物的な循環のことである。単純に「米」のことだけではない。勿論、米は人間が直接食べるので心配なのだが、現在のホットスポットの河川敷の土壌はミミズが好きそうな場所であり、まずミミズをはじめとした土壌中の生物への濃縮、そしてそれらを食べる鳥や、魚類への汚染が気になる所だ。魚類については、かつて1969年アメリカの核実験に反対する「波を立てるな委員会(Don't Make a Wave Committee)」が元祖のグリーンピースがシルベクというサイトで独自の調査結果を発表しているので、ある程度のモニタリングは可能だが、人間が口にしないミミズやその他の生物の状態はどうなっているのだろうか?チェルノブイリの森では放射能にかなりの耐性のあるネズミも見つかっているそうだが、その影でひっそりと死に絶えたり、もしくは何らかの遺伝変化をおこしている生物がいるのではないだろか?目に見えない、人には直接的に関わりのないように見える生き物たちへの調査、研究が急務であるような気がする。
 カーソンも『環境の汚染』のなかで「人間は時として利口すぎて、かえって我が身を滅ぼそうとしているのではないか」と危惧している。このような危惧が現実のものとならないよう、また、このような惨禍を招いたことを真摯に見つめ同じことを繰り返ないよう、そして環境中の生物を可能な限り注視して行くこと。このことを怠ると、人類への希望は失われやがてそれはディープエコロジーとしてよりラディカルな環境保護活動が日本でも始まることになるであろう。
失われた森 レイチェル・カーソン遺稿集 (集英社文庫)/レイチェル・カーソン

¥880
Amazon.co.jp