池波 正太郎, 直木 三十五, 綱淵 謙錠, 津本 陽, 五味 康祐
剣聖―乱世に生きた五人の兵法者 (新潮文庫)
 先に『ゴースト・ドッグ』で「葉隠」的生き方を見たせいか、剣豪小説が読みたくなり書庫をあさると、アンソロジーで池波正太郎、津本陽、直木三十五、五味康祐、綱淵謙錠ら時代小説の大御所が上泉伊勢守、塚原卜伝など傑出の剣豪を描いた文庫があったので、秋の夜長読んでみた。
 中でも池波の『上泉伊勢守』、津本陽の『一つの太刀』が良かった。剣豪小説というと血風吹きすさび、剣一本で血路を開くのようなぎらぎらしたものかと思いきや、「葉隠」並みに精神的な内面を描いたものであって、存外穏やかな気持ちになった。上泉伊勢守は剣という殺人の武器を、人を生かす活人剣へと高めてゆく思想の持ち主で、それはやがて無刀という境地まで達する。剣を磨きながら剣を捨てる。このアンビバレンツな跳躍に至る、戦国乱世を生きるもののふの悲哀が静かな感動を生む。
 『一つの太刀』は郷里鹿島の神宮での坐臥を通じて剣の真髄へと達する塚原卜伝の修行を描いている。そこには剣を振るい敵を倒してゆくという道筋はなく、ひたすら半眼瞑想のうちに自己を見つめ返すことによって剣の道を悟ってゆくという、これも一種ウルトラ級に超越した話で、卜伝が寒風の中、剣を持った神と対峙する場面は、凛として読んでいて気持ちがよい。
 剣に生きる男たちの、怜悧で潔白、愚直なまでに己を追い込んでゆく生き方は、このモラルが低い今の世の中にあって、さわやかな秋風の様に胸に迫るものがあった。