ベランダに鳩が卵を産んだ。締め切りのある仕事に追われしょこしょことパソコンの画面に齧りつき、選挙戦も終盤に差し掛かった、ウグイス嬢の絶叫にも似た、まるで猫を踏みつけたような、声にイライラさせられながら、一服つくつもりで、ベランダに出ると、エアコンの室外機の隅に小さな卵が2つコロリと転がっていた。
 2年程前から、つがいの鳩がベランダの睡蓮鉢から水を飲んでいるのは知っていた。というか、あのクルクルと鳴く声が日の出とともに聞こえると、迷惑な気がした。白い大振りな一羽と、溝のように汚れちまった灰色の小柄なつがい。
 しばらくすると、大振りの白がやってきて卵を抱いた。私が近づいて眺めるとオレンジ色の眼を大きく見開くも、身じろぎ一つしない。
 困った事になった、隣に住む「独居老人」は大の鳥嫌いだ。つがいが自分の地所に入るのを嫌い、ベランダに不可思議な造作をしている。それどころか、私の不在の時には、棒のようなものでこちらのベランダを突っついている節がある。4階のベランダの鉢植えが風もないのにことごとく倒れていた事があることからして、それは、間違いないだろう。
 もし、ヒナが孵り、ぴよぴよと鳴き出したら、無事ではすまないのではないか?この事については、確信がある。というのも共有スペースにある電気メーター内に巣を作った、雀のヒナを引っ張り出しているのを観た事があるからだ。
 さて、どうしたものか?鳩のつぶらな瞳を見ていると、ああ、こんな所に巣を作らなくてもと、少し恨めしく思う。困ったものである。とりあえず、親鳥の居ない時に、隣室との境の隙間にレンガを置いてみた。
 鳩よ、決して君たちが朝はやくから、鳴いていた事や、大切なハーブをつまみ食いした事を許した訳ではないぜ。でも、やれるだけやってみようぜ。
 こうして、私は意せずして隣人に宣戦布告してしまったのだった。どうなることやら、トホホ。