『邂逅の森』、『相剋の森』とマタギを書き続けた、著者の<森シリーズ>最終作。郷里の東北の森を逃れた、「矢一郎」は樺太の地にあった。時は、日露戦争後、勝利に浮かれる日本は、大陸への利権の足がかりとして、シベリアへの干渉を強めていた矢先、まるで近代化の波に揉まれ、住処を追われた郷里の熊や、かつての、生き物と人とが親密な交感を得ていたマタギの猟が、単なる肉と皮の生産手段へと墜落するかのように、何者かに追われるかのごとく、北の果ての大地に降り立つ「矢一郎」であったが、そこも、安穏の地ではなく、国の利権とそれから零れ落ちる僅かばかりの利得を狙う山師の蠢く、人間社会の縮図だった。
 マタギとしての銃の腕を買われた「矢一郎」は愛する者を守るためとはいい、不本意ながらも戦争に巻き込まれてしまう。時には日本の兵隊を、そして、時にはロシアのそれを・・・・・・
 結局は、自分を超えた大きなもの-それは、国家であったり、地獄の業のものであるのかもしれない-に揺り動かされての、行為には、ただ生を奪うという、単にむごたらしい現実があるのみだった。それは、かつての命を奪った熊の魂が、森に還り蘇るような世界ではなかったのだ。
 そうして彼は、厳冬の国境を越えてゆく。その地に大地と共に住む「ニブヒ」という少数民族の少女の手をとって。自由を求めて。



熊谷 達也
氷結の森