短編小説には、長編にはない悦びがある。それは、何気ない風景のように、音楽のワンフレーズのように、記憶の底にそっとしまわれ、あるとき懐かしさと共に、表層に意識される、そんな類の悦びだ。
山川方夫の『夏の葬列』は、そんな短編の中でも、私がもっとも好きな一篇である。久しぶりに読み返そうと思って書庫を探したが、見当たらない。知人友人に「良いよー。これ、読んでみ。」と貸しまくったのが災いしたのか、どうしても見つからない。思えば、高校生の時に文庫を手にしてから確か3回は再購入されている。また、どこかの知人宅に紛れ込んでいるのだろう。
戦中の疎開先での出来事を描いた作品は、夏の太陽に焼かれた深い青の中にわずかに紫色をたたえた芋の葉を翻すように、蒼穹の空に不吉なそして、鋭利な刃物のように輝くグラマン機のジュラルミンの銀と、ゴム鞠のように機銃に貫かれる女学生の純白のブラウスに包まれた肢体と、葉を伝う赤い鮮血と、その悲劇の刹那のちかちかするような色彩の点滅は深く、私の心に刻まれて離れることがなかった。おそらくこれを超える短編には出逢えないのではないだろうか?そんな気がする。
著者の山川方夫は神奈川県の二宮の国道で、交通事故で亡くなっている。車で通り過ぎることも多いその場所だが、私は二宮近辺を走ると、やはり著者のことを思って少し淋しくなる。1965年、結婚して穏やかな生活を始めたところの突然の事故であった。享年34歳。若すぎる死である。
- 山川 方夫
- 夏の葬列