実際の発音は「ゼッペリン」の方が近いらしいが,やはり日本では,この表記だろう。

 

 このバンドの一番凄いところは,そのファンのこだわりというか,「とにかく75年のアールズコートは24日が一番だったな」とか,「いやいや25日のラストだろう」とか,ライブバンドとしての評価が異様に高く,しかも一つとして同じ演奏がないと言われるほどアドリブに満ち,アグレッシブ,エキセントリックな雄姿と音圧,音の鋭さだ。

 

 トリビュートバンド,分かりやすく言えば物まねバンドが多いのもこのバンドの特徴だと思う。ビートルズのトリビュートバンドも,数は多いが,演奏は本物そっくりに真似してできるとしても,あの独特の声やハモリをそっくり再現することは難しいし,ライブで再現できる曲は初期からせいぜい中期までに限られる。名曲揃いの後期の曲はライブで再現するのが難しく,本物のポールがいてやっと形になっているというところ。

 

 それに比べて,ツェッペリンは演奏の質は高いが,楽器を完璧にコピーできれば,問題はロバートの声だけになる。ただ,ロバートのボーカルは絶好調の時はだれにもまねできないリズム感で突き進む反面,不調の時もあり,我慢して聞いて,「今日のブラントは調子が悪い」と割り切ることもできる。

 

  トリビュートバンドだけでなく,カバーの演奏を聴くと,例えばグレイトホワイトなど,とてもレベルの高い曲を何曲も演っていて,カバーアルバムも結構楽しめる。ビートルズの場合,一つのバンドが何曲も,しかも初期から後期までカバーしたアルバムを作るのは相当難しいのではないかと思う。

 

 ツェッペリンはハードロックバンドとかヘビーメタルバンドといったジャンルに分類されることが多いが,そのどちらでもなく,基本的には民族音楽を採り入れたロックバンドというのが僕の認識だ。曲調も曲想も,どちらかと言えばプログレッシブロックに近いものがあるし,リフもハードロックバンドのような様式美に彩られているわけでもなく,激しく変化する曲中のブレイクや音の揺れ方など,相当に実験的で冒険的だ。

 

 ツェッペリンは,70年代を飛翔し続けたが,80年,ボンゾの突然死によって空中分解し墜落してしまった。大修理によって2度か3度飛び立ったものの,90年代のそれは見るも無残な姿であった。21世紀になると大御所と化したクラプトンや,いつまでも歳をとらないベックと比較してペイジの老化は往年のファンからすれば目を背けたくなるような悲惨さであった。しかし,2007年,一夜限りの再結成は相当な意気込みで臨んだのであろうということが誰の眼にも明らかなほどの見事な出来栄えであった。

 

 あれこそが真の意味での奇跡の一夜というべきだろう。2万人収容という室内会場としては最大規模のアリーナ会場でのコンサートには,何と2千万通もの応募があったというから驚き以上に,本当かとにわかに信じられないほどのカリスマ性を発揮した。

 

 そう,ツェッペリンは,伝説のバンドなのだ。若き日のジェイムス・ディーンが老獪な姿で蘇ったところで,誰が喜ぼうか。ボンゾの息子が,親父に負けないパワフルなドラムを叩けるのだから,もう一度再結成してほしいと願う気持ちも強い一方で,衰えたペイジやプラントは見たくないという複雑な思いを,もう一方で強く持ってしまうのだ。