トリビュート・バンドだけは例外だが,基本的に,洋楽のライブにしか参戦しないことにしている。トリビュート・バンドについては,その内容が洋楽であれば,バンドが日本人であろうが外国人であろうが関係ない。実際,全員日本人の「シナモン」も和洋混合の「JIMMY桜井」のライブも,その圧倒的なパフォーマンスに本物と変わらないほどの感銘と衝撃を受けたものだ。

 

ただ,完全にオリジナルの日本人バンドの中にも,是非とも一度は体験したいバンドが少なくとも2つある。サザン・オールスターズやユーミンではない。彼らも魅力的には違いないが,どうしてもということになれば,テレビやビデオで鑑賞することができるからだ。

 

そうではなく,わざわざライブ・スケジュールをチェックしてでも何とか観たいバンドの一つが「人間椅子」だ。

 

知る人ぞ知る,彼らは,独特の世界観を津軽弁を基調とした日本語に乗せて,ダークでヘヴィなメタル・サウンドで展開する稀有のバンドだ。そもそも,このバンドを知ったのは1980年代末期のテレビ番組「イカ天」だった。

 

正式には「いかすバンド天国」という名前だったと思うが,喜劇俳優の三宅裕司とアイドルだった相原勇の軽妙な司会によるアマチュア・バンドの実力勝ち抜き合戦というコンセプトの番組で,土曜日の深夜に放送されていた。あえて,ちょっと馬鹿にしたような紹介のされ方で登場する何組かのバンド演奏を審査し,最後まで完奏させてもらえれば,一応合格となる。その上で,週ごとにチャンピオンが選ばれる仕組みだった。

 

中には,その後プロとして活躍したバンドもいるし,何週も勝ち抜いて「イカ天キング」に輝いたにもかかわらず,今となってはすっかり忘れ去られてしまったというバンドもある。全国から集まっていただけに,今にして思えば,相当レベルの高いバンドが出ていた。

 

「人間椅子」も,僕は初めて観た時からとても気に入ったのだが,番組では,何か特別賞のようなものをもらっただけでチャンピオンにはならなかった。アマチュア時代から,彼らの世界観は音,歌詞,スタイルすべてに統一感があって,唯一無二の様相を呈していた。その後,しばらく音沙汰のない時期もあったが,何度かの試練を経て,数年前からは,全国各地のライブ・ハウスを満員にするほど熱狂的なファンを獲得している。

 

彼らのCDを何とか安く入手しようとアマゾンやヤフオクで検索をかけても,値が下がっていないことから,多くの人がとりあえず買ってみて飽きたら手放すという流行を追うタイプのバンドと正反対に,自分たちの音楽観を大切にし,それに呼応するファンだけを相手にするという,しっかりした信念を持った数少ないバンドだと思っている。

 

バンド名が,有名な推理作家の江戸川乱歩の作品名から採られているように,日本古来の文学や伝統を背景にした歌を歌っている。難解な単語やおどろおどろしい言葉を,ラップ的な要素も交えながら,ベースの鈴木氏とギターの和嶋氏が半々でリードを取る。

 

そういうところは,キッスのジーンとポールに似ている。音楽性は,ブラックサバスを基調としているとされているが,僕は,先日,久しぶりに聴いたメタリカにそっくりだと思った。メタリカのザクザクと切り込んでくるダイナミックな音を津軽弁にして,早口の日本語で歌っていると思ったら想像がつくだろうか。

 

とにかく,彼らの音楽は30年先を行っていたのだ。ギターの演奏力には当時から審査員も驚いていたが,ベースのゴリゴリした音も,メンバーは何人か変わったが,ジョン・ボーナムを彷彿とさせる力強いドラムも日本人バンドの中では傑出していると思っている。