ビートルズの曲は,シンブルなメロディの奥に複雑なコード進行が隠されていたり,何気ないフレーズの中にとてつもなく常識外れの音が混ざっていたりするのだそうだ。

 

「そうだ」というのは,僕は熱心なファンではあっても,音楽理論に詳しいわけではないし,ギターの違いによる微妙な音色の違い,あるいは,楽器によっては,音が出る原理についてさえ知らないのだから,誰かがそんなことを言っている話を聞いたとか,詳しい人が解説しているものを読んで,分かったつもりになっているだけなのだ。

 

だから,このブログでは,あくまでも一人のビートルズ・ファンとしての楽しみ方や素晴らしさを共有しようとすることだけを意識して書いている。

 

日本のビートルズ・ファンの多くは,意味もよく分からない英語の歌詞そのものではなく,彼らの圧倒的に個性的なボーカルから訴えかけてきている何かを魂で感じているのだと思う。

 

それもそのはず,歌詞に関して言えば,昔,レコード盤を買った頃についていた歌詞カードの和訳は本当にひどかった。酷いと言ってもないよりはましだったが,単語や熟語を直訳しているだけのものなのだから,日本語としての意味が通じるというだけで,彼らが実際のところ,何を訴えているのかということや,その曲を作った背景などは知る由もなかったというわけだ。

 

ビートルズの曲を聴いて楽しんでいたのは,やはりあの迫力ある歌声が中心だった。ラブと歌えば,愛について歌っているから,何となくラブ・ソングなんだろうなとか,そんな表面的な世界を聴いていたのだ。

 

その後,ビートルズの曲についてはいろんな人が研究し,あるいは,メンバー自身が当時の状況などについて回想しながらインタビューに応えたことが積み重なって,最近になって初めて解き明かされるものも多い。だから,ビートルズは今でも楽しめる。

 

ところで,彼らの最晩年のアルバム「レット・イット・ビー」は,リハーサル音源の寄せ集めみたいで,「アビイロード」のように練られることなくストレートに演奏された曲を適当に繋ぎ合わせて作られた印象が強く,あまり好きではないのだが,それでも,腐ってもビートルズなのだ。

 

腐ってなどいないが,正直,曲の質はあまり高いものが多いとは言えない。そんな1曲に「ディッグ・ア・ポニー」というのがある。単調だし,「ワン・アフター909」のようなアップ・テンポな曲でもないということもあって何となく聴き流すことが多い曲だ。

 

ところが,ふとこの曲のタイトルはいったいどういう意味なのか考えてみたら,分からないということに気が付いた。何十年も聴いてきて,今更ということなのだが,ディグというのは掘る,ポニーはあの小さな馬。やはり分からない。

 

いつも頼りにしている和訳のサイトを見ても「正直,意味不明」と書いてあったりする。ジョン自身,適当に言葉を並べただけで意味なんかないと言っているのだから,別にそれでいいとも思うのだが,途中の歌詞には,やはりジョンらしい言葉を見つけることができるのだ。例えば「行きたいところへ向かって突き抜ければいいんだ」とか「欲していることを祝えばいいのさ」「君自身のすべてをまき散らせ」みたいなことを歌っている。要するに,自分が思った通りのことを誰にも気兼ねすることなく,自由に,そして自在にやってみろと歌っている。

 

それは,この曲を聴いている僕たちに向かっている言葉でもあり,ジョンが自分自身に対して,それでいいんだと納得しようとしている言葉でもあるように聞こえる。そんな風に,彼の考えていることを勝手に想像しながら改めて聴いてみると,意味は分からなくてもすっきりした。