ふすまを見れば障子が無くなり、壁を見れば平気で猫やネズミがかけっこするのに通っていく。空を見上げれば昼は青空、夜は星空と時間を潰すにはもってこいときている。
こんな家でも地べたで過ごすよりはましなのだ。
「今日も一日おつかれさんっと」
誰に言う訳でも無くそう言って床に就くと、今日の夜空はどうにも暗い。ああこりゃああれだなと思っていると、案の定、思った通りに雨が降ってきた。
俺の家は年中無休で万物受け入れているような、ものだから雨を客人として迎え入れるのも何時もの事だ。
「おーうい、元気してたか?」
俺は雨が入ってくるとそう声をかけた。
「やあやあ、お邪魔しますよ」
相も変わらず腰の低い声で雨が応えた。
「時間が時間だから俺はもう寝かせてもらうぞ」
「どうぞどうぞ。一宿お世話にならせていただきます。お代はいつも通りで宜しいでしょうか?」
「ああ、頼むよ。世間が荒めば心も荒むからな。何が来たって不思議じゃあない」
「ではではいつものように……」
俺はこんなやりとりをして眠りに就いた。
近頃は何処も荒んでいて、上手くいっている所だけじゃなく貧乏人の家にまで危ない奴らが入ってくる。
用心棒を雇う金など一銭たりともありゃしないのだが、雨の日だけは別だった。
俺は雨に、いくらでも家に入ってきても良いが代わりに家を守れと言ったのだ。すると腰の低い雨は俺の言った話を律儀に守るようになったのだ。
自分で言いながらも最初はどうかと思ったが、一度だけ雨の日に物取りが家にやって来た事があった。雨は溺れる寸前まで物取りの体を包み込んで、俺を、家を守ったのだ。
それ以来俺は雨を信用している。寝る前なら話し相手にもなるし、寂しさを紛らわすにはもってこいの相手でもあった。
「おーす。雨よぉ、寝てる間はどうだった?」
目を覚ますと俺は塩梅を雨に尋ねた。が、声が返ってくる事は無かった。それはそうだ、天井を見ればカラッとした青空がちらりちらりと見ているのだから。
「なーんだ、行っちまったのか」
少し寂しく思いながら俺は起き上がった。すぐにやらなけりゃならない事があったからだ。
雨に家を守らせると、決まって家中は雨漏りよりも酷いずぶ濡れになっているからその片づけをしなけりゃならないのだ。
面倒なのは変わらんが、それでも次の雨は何時かと楽しみにしている俺なのだ。
終わり