372 急接近 | 鰤の部屋

鰤の部屋

数年の時を経て気まぐれに更新を始めたブログ。
ネタが尽きるまで、気が済むまで更新中。

 物凄いピンチがある日突然やってくるのは長く生きていれば一度はあるものだ。
 何が言いたいのかというと、突然超巨大隕石が地球に迫ってきているのだ。99.999999%の確立で落下して来るという計算が出た。ぶつかれば確実に地球が粉微塵になるという事もあり、世界各国人は理性を失い、それぞれのやりたかった事、出来なかった事を実行する荒んだ世界になっていた。
 が、何も全員が全員野生に返った訳では無い。
 この地球全体の危機を回避出来ないかと考える研究者達がいたのだ。
 だが
「ああだめだ、何も方法が浮かばない」
「隕石をミサイルで破壊しても欠片がどうあっても地球に降り注ぐ。より酷くなる!」
「こんな時に岩清水博士が居てくれたら……」
 というように手詰まりになっていた。
「皆、朗報だぞ。岩清水博士が、岩清水博士が見つかった」
 この言葉は絶望していた研究者達に活路を見い出した。
 岩清水博士という人物はとにかく奇抜な発想でこれまでの研究者達が残してきた以上の発見発明をたった一人でしてしまったというとんでもない人物だった。
 岩清水博士はどういう訳か姿を晦まし、行方は長い事分からなかったが、ついに見つかったというのだ。

 さっそく博士の下へ向かう研究者達。到着した場所で、博士はなぜか地面にスピーカーとマイクを刺していた。
「岩清水博士、お願いです。この危機から地球を救う知恵を私達に与えてください」
「そうかそうか、それでちみ達は私を探していたのだね。安心すると良い、もう手は打った。間違いが無ければこれで良い筈だ」
 博士が一体何をするのか注目する研究者達。
「アーアー。地球よ、アースよ、私の声が聞こえるだろうか?」
 博士はマイクに向かってそう呼びかけを始めた。するとスピーカーから声が聞こえてきた。
「何用だろうか? 言葉は通じているだろうか?」
「問題無い。私が開発した地球意思伝達装置で問題無い。さっそくだが、今地球に超巨大隕石が近づいている。このままでは我々はおろかあなたまで粉微塵になってしまうというデータがある。我々では対処しかねるので自身でどうにか出来ないものか?」
 なんと岩清水博士は自分達は無理だから地球にどうにかしてもらおうと考えたのだ。その発想に唖然とする研究者達。
「なるほど分かった。しかし問題は無いだろう」
「どうしてそう言いきれるのか教えてはもらえないだろうか?」
「いまこちらにやってきているのは父なのだ。うん億年ぶりに父が私に会いに来たのだ。ただ横を通りすぎ、挨拶をするだけなので君達が滅ぶ事は無い。保障しよう」
「そうか、それならば安心だ」
 納得した様子で博士は会話を終わらせてしまった。
「ちみ達、そういう訳だからもう心配する必要は無いぞ」
 博士は言ったが、この場に居た研究者達は一人も信じてはいなかった。その様子を見て、ならばと博士はまた別の機械を用意した。
「これは他の星の言葉を我々の言語に翻訳する装置だ。電波を飛ばして使う物だから地上からでも何の問題も無い。さあ、隕石を待とうか」
 そうして博士と研究者達は隕石が来るのを待つ事になった。
 そして隕石の姿が地球でも見られるようになった。
「父さーん、私が育てた生き物達だー」
 地球に刺したスピーカーからそんな言葉が聞こえてきた。
「おーう、立派に育てたなー。父さん嬉しいぞー。またしばらくしたら顔見に来るからなー」
 その会話は極々平凡な会話で、これを聞いた研究者達の口は開きっぱなしで塞がらなくなっていた。
「ほうら、何も無かっただろう?」
 未曾有の危機を乗り越えた地球。人類全員が呆けている中で、岩清水博士だけがただ一人が平然として後片付けを始めていた。 


終わり



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