263 忘れごと | 鰤の部屋

鰤の部屋

数年の時を経て気まぐれに更新を始めたブログ。
ネタが尽きるまで、気が済むまで更新中。

 最近夜になるとググッと冷えてしまって、夜更かしするのも辛い。節約節約と世間様が賑やかだから、私もそれに合わせて最近は早くに寝るようになった。
「もう八時か。明日は七時でいいや」
 と、布団の中に入る。

 すやすやと眠っていたら、突然扉が蹴破られた。
「何やってるんです、早く来てくださいよ」
 大きな音に脈が速くなり、動悸息切れが起こっている中、よく分からない連中に連れ去られてしまった。
 車の中に押し込まれて訳が判らない。走る車は高速道路に入った。
「全く、今日は大事な日だっていうのに何やっているんですか!!」
 なぜか怒られる私。何をやっているのかって? 寝てたんですよ。寒いから。
 言ってやりたいけれどもこの連中、切羽詰った様子で言い出せない。
 高速を抜け、次に車が止まったのは空港のど真ん中。
「この飛行機に乗ってください。早く!!」
 またも強引に押し込められる。ジャンボジェットとは言わないまでも、一般的な旅客機程度の大きさの飛行機の中、私は身ぐるみを脱がされ、お高級な服を数人に着付けられる。
「時間が無いんで、儀式始めますからね!!」
「儀式?」
 服を着替え終え、まだ分からないままでいると飛行機の奥の扉が開き、謎の六人が現れ、私を囲んだ。
「な、何をするんですか」
 顔色の一つも変えない六人は、それぞれが違う言葉で呪文らしきもの唱え始めた。
 ここで始めた私は大切な何かを忘れている事を自覚した。けれどもそれが何か思い出せない。出てきそうで出てこない。
 そうこうしていると飛行機は目的地に着いたらしく、地上へ着くとすぐに降ろされた。
「時間がありません。早くこの中へ」
 巨大な大筒に押し込められる私。
(ああ、なるほど)
 ようやく何か思い出した。それと同時に私はまだ薄暗い空へと放たれた。
 ツンと澄んだ冷たい空気が懐かしい。雲を突き抜け、一番高くへ昇るその時を待つ。
 時が来た。ここぞとばかりに私は輝いた。
 今日は新たな年の始まりなのだ。危うく私はこの事を忘れてしまう所だった。
 しかし、たくさんの人のおかげで今年もこの役目を果たす事が出来た。初日の出という役目を。


終わり



にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ


 お正月という事で少々更新が途切れます。次回の更新時には一つよろしくお願いします。
 という訳で、それでは良いお年を!!