「にいちゃん、にいちゃん。なんか聞こえる」
「聞こえる? 何が」
「なんか打ち付けてる音。外の方」
耳に神経を集中させてみると、確かにそんなような音がしている。
「どっかで工事してるんじゃないか?」
「ちょっと外見てくる」
と妹は家を出た。五分くらい後に戻ってくると
「工事の明かり、見えないよ」
「じゃあ遠くのが聞こえてるんだろ」
爺ちゃんの家は、畑が周りを囲んでいるから見晴らしが良い。だからそう思った。
「ふぁふぁっふぁ、聞こえてるのは土打ちじゃなかろうか」
爺ちゃんが酒の瓶を片手に現れた。
「どうち? どんな仕事?」
「仕事じゃないよ。妖怪さ」
爺ちゃんの口から出たその言葉に、呆気に取られた。それからおかしくて笑ってしまった。
「妖怪なんていまどき子どもでも信じないよ。いないいない」
「いやいや、ここらは道が荒れると土打ちが出てな、道を平らにしてくれる。昨日の雨で悪くなった道も、明日にゃ直ってるよ」
爺ちゃんはこう言ったけれど、信じるには胡散臭すぎる話だ。
「土打ちすごーい、すごーい」
妹は話を聞いて大はしゃぎしていた。まだまだ子どもだ。
次の日の朝、妹に叩き起こされ、しぶしぶ外へ出た。そこでまぶたの重りが吹っ飛ぶほどの事があった。
道が綺麗になっているのだ。
「嘘だ。機械の音なんかしなかったもの」
信じられない光景を目の当たりにして動揺していると、後ろから爺ちゃんがやって来た。
「妖怪に感謝しなきゃなぁ」
帰る日、車でまた同じ道を通った。来た時のようにぐったりする事は無かったけれど、まだ土打ちの存在を信じられずにいる。
終わり