244 土打ち | 鰤の部屋

鰤の部屋

数年の時を経て気まぐれに更新を始めたブログ。
ネタが尽きるまで、気が済むまで更新中。

 ガタガタの道を車で走って、まだぐったり気分が抜けない夜だった。父方の爺ちゃんの暮す田舎で、何もする事が無く、ぼけーっとしていると妹が突然こんな事を言った。
「にいちゃん、にいちゃん。なんか聞こえる」
「聞こえる? 何が」
「なんか打ち付けてる音。外の方」
 耳に神経を集中させてみると、確かにそんなような音がしている。
「どっかで工事してるんじゃないか?」
「ちょっと外見てくる」
 と妹は家を出た。五分くらい後に戻ってくると
「工事の明かり、見えないよ」
「じゃあ遠くのが聞こえてるんだろ」
 爺ちゃんの家は、畑が周りを囲んでいるから見晴らしが良い。だからそう思った。
「ふぁふぁっふぁ、聞こえてるのは土打ちじゃなかろうか」
 爺ちゃんが酒の瓶を片手に現れた。
「どうち? どんな仕事?」
「仕事じゃないよ。妖怪さ」
 爺ちゃんの口から出たその言葉に、呆気に取られた。それからおかしくて笑ってしまった。
「妖怪なんていまどき子どもでも信じないよ。いないいない」
「いやいや、ここらは道が荒れると土打ちが出てな、道を平らにしてくれる。昨日の雨で悪くなった道も、明日にゃ直ってるよ」
 爺ちゃんはこう言ったけれど、信じるには胡散臭すぎる話だ。
「土打ちすごーい、すごーい」
 妹は話を聞いて大はしゃぎしていた。まだまだ子どもだ。

 次の日の朝、妹に叩き起こされ、しぶしぶ外へ出た。そこでまぶたの重りが吹っ飛ぶほどの事があった。
 道が綺麗になっているのだ。
「嘘だ。機械の音なんかしなかったもの」
 信じられない光景を目の当たりにして動揺していると、後ろから爺ちゃんがやって来た。
「妖怪に感謝しなきゃなぁ」
 帰る日、車でまた同じ道を通った。来た時のようにぐったりする事は無かったけれど、まだ土打ちの存在を信じられずにいる。


終わり



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