離職が続き、人員不足で窮地に陥りました。ピンチでしたが、自分やチームマネジメントでこれまで見過ごされていたことを大きく改善するチャンスなのだと自分に言い聞かせました。


人手不足だからと言って、「人がいない!なんとかしなきゃ!」と行き当たりばったりで感覚や感情に頼ったマネジメントをしたら、必ずどこかで行き詰まり、どこが悪かったのかわからなくなります。

だから私は文献を基に、組織のあるべき姿と、そこにたどり着くための方法を、仮説をたて、マネジメントを実行することにしました。



実験的ではありますが、それは心理学やマネジメント理論に基づいたものであり、感情や個人の経験に基づいたマネジメントをするよりも失敗のリスクは大きく減り、仮に失敗があったとしてもすぐに修正が出来ると考えました。

またその仮説が実証されれば、自分はどこへ行っても理想の組織を再現できるのではないかと思いました。もちろん、将来の自分の店も。

私が個人的に参考にさせていただいている星野リゾート代表の星野佳路社長は著書の中でこのように述べています。

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“私はこれまでの経験から「教科書に書かれていることは正しく、実践で使える」と確信している。課題に直面するたびに、私は教科書を探し、読み、解決する方法を探してきた。
・・・
私が教科書通りの経営を実践しているのは、経営判断を誤るリスクを最小にしたいからである。
・・・
経営判断の根拠や基準となる理論があれば、行動のぶれも少なくなる。自分の下した判断に自信を持てるようになり、社員に対して判断の理由を明快に説明できる。
ところが基準を持たない経営判断では、すぐに結果が出ないと、「自分の判断が間違っていたのではないか」と疑心暗鬼になってしまう。もう少し辛抱すべき時でも、何とかして短期的に改善したくなり、それが経営のブレを生む。“
(「星野リゾートの教科書」日経BP社 より一部抜粋)
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マネジメントには、生まれ持った才能に基づく「アート」な部分と、理論に基づく「サイエンス」の部分があるかと思います。

私の場合はそれまで人の上に立った経験も少なく、どちらかといえば避けて通ってきました。自分の直感にも自信はありません。自分には直感や経験に基づいたアーティスティックなマネジメントを行う素質はないと思います。

だからこそ、私は自分のマネジメント手法の中で、理論に基づき汎用性があるサイエンスを取り入れる必要があると感じ、教科書を根拠とするマネジメントをすることを決めました。

私が当時まとめた組織のあるべき姿と、そのための方法は以下に書き記します。
(すべてを書くとかなり長くなってしまうので、抜粋したものを書きます。)



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「やる気に満ちた「やさしいチーム」のつくり方」

仮説
理想の組織:
だれがリーダーで、だれが部下か分からないフラットな組織。
=社員もアルバイトも関係なく、皆がチームのために、経営者目線でお店を自分事として考え、自発的に動き、成果を残す組織。

理由:
ビジネスの本質的な価値を生み出す瞬間は多くの場合、リーダーではなくスタッフが生み出します。であれば、最も権限を委譲され、自発的に動けるのはスタッフであった方がいいと考えました。リーダーは裏方でスタッフを陰からサポートする。成果が出るまで時間はかかるが、逆三角形のピラミッド構造の組織の方がより大きな成果を生み出し、組織としての持続可能性もあるためです。

方法と手順:
理想の組織を作るため、やるべき手順は以下の通りです。
①    関係の質を高める:対話から始める。率直に話し合う場を作り、信頼関係を築く。
②    思考の質を高める:前向きな気持ちを醸成し、いいアイデアが生まれる環境をつくる。
③    行動の質を高める:一人一人が自律的に行動し、問題が起きたら助け合う。
④    結果の質が高まる:自然にパフォーマンスが高まり、成果が出る。
⑤    関係の質が高まる:組織への帰属意識が高まり、更に結束が深まる。

これを①から始め、順番に組織のフェーズにあわせて進めていきます。
順番に説明します。

1番目の関係の質のフェーズでは、まずチーム全体に信頼関係が築けていない状況です。組織ができて間もないころ、もしくは崩壊している状態と考えます。だからこのフェーズの組織ではまず、「心理的に安全な場をつくる」ことがとにかく重要です。スタッフひとりひとりが、「この職場は安全だ」、「自分を受け入れてくれる」、「ミスしても大丈夫」という感覚を持てるように促していきます。

このフェーズで数字や結果を求めてはいけません。1番目のフェーズですぐに数字を求めてしまうのが、すべての悪循環サイクルの始まりです。

悪循環サイクルは以下のようなものです。


悪循環サイクル
①    結果の質:無理に成果をもとめると、人への強制が増えていく。
②    関係の質:メンバーにストレスがかかり、人間関係が悪くなる
③    思考の質:疑心暗鬼に陥り、結果以外のことに無関心になる。
④    行動の質:短期的な成果づくりに走り、メンバー間の協業も少なくなる。
⑤    結果の質:パフォーマンスが落ち、さらに予算必達の圧が強まる。

よくみる、雰囲気が悪く離職率が高く、成果の出ない組織ではないでしょうか。
1番目のフェーズでの肝は、結果の質から高めようとしないこと。必ず関係の質から高めるよう働きかけることです。私が以前失敗した原因はここにありました。

リーダーがやるべきことは、自身の完璧主義や相手をコントロールしたいという欲求、ミスが出たときに犯人捜しをする欲求が場の安全を低下させていることを認識し、出来る限りやめていきます。相手を信頼することが大切です。

そのうえで、リーダー自身の強がりのプライドを捨てて、素の弱い自分をみせる勇気を持ちます。自分の弱みを隠すのではなく、さらけ出します。すると、職場に思いやりや助け合いが生まれてきます。

こうして組織の心理的安全性が満たされてきたら、次に2番目の思考の質のフェーズに移ります。この段階では仕事の意味を共有します。「社会にとって自分たちは何のために存在しているのか?」「自分たちは何のために仕事をしているのか?」「どこへ向かいたいのか?」を一緒に考えるのです。

リーダーの役目は情報と仕事を配るのではなく、意味と希望を伝えることです。私はリーダーの役目は部下に指示を出すことと勘違いしていましたが(もちろんそれは役割の一部とは思います)、スタッフが自発的に動けるよう仕組みさえ整えればリーダーは指示なんて出す必要がありません。むしろスタッフが躍動感を持って働く環境を作るには、指示なんて出さない方がいいと考えています。

仕事の意義は人それぞれ違うので、丁寧に対話を重ね、一緒に見つけていき、スタッフが仕事を「したくないけど仕方なくする」ではなく、内発的動機をもって「仕事がしたい」と思ってもらうのが理想です。一方的に与えるのではなく、お互いにwin-winになることを目指します。

次に3番目の行動の質のフェーズで、スタッフの「自律性・有能感・関係性」を満たしていきます。

人には3つの心理的欲求があります。
1つは自律性。自分自身の行動は自分で選択したいという気持ちです。
2つ目は有能感。適切な課題に挑戦し、達成感を味わいたいという気持ちです。
3つ目は関係性。人と支えあいたい。貢献し、貢献されたいという気持ちです。

これら3つの欲求を満たすために、「エンパワーメント(権限委譲)」、「フラットな組織の構築」、「コーチング」などを行っていくのですが、ここに記載するには長くなりすぎるので、具体的な方法はここでは割愛させていただきます。

上記の3つの欲求を満たすことでスタッフは内発的な動機を持ちやすくなります。スタッフにとっては、自分が選択したことで、自分の能力を活かして価値を生み、信頼しあう関係性が築かれていくことで心が満たされ、豊かな人生を送ることが出来ます。

その結果として、4つ目のフェーズに自然と移行します。
心が満たされ、自発的に動く「自走する組織」は、自然と大きな成果を得ることが出来るのです。

成果が出てくると自然とスタッフの帰属意識も高まり、組織の結束もさらに強くなります。5つ目のフェーズです。

この好循環を回すことで、スタッフの離職は減り、組織としての持続可能性が高まります。

(参考文献)
・「武器としての組織心理学」(山浦一保 著)
・「MBAミドルマネジメント」(グロービス経営大学院)
・「MBA組織と人材マネジメント」(グロービス経営大学院)
・「ビジョナリーカンパニー」(ジェームズ・コリンズ 著)
・「サンリオピューロランドの人づくり」(小巻亜矢 著)
・「だから僕たちは、組織を変えていける」(斉藤徹 著)
・「星野リゾートの教科書」(中沢康彦 著)
・「1分間エンパワーメント」(ケン・ブランチャード著)
・「1分間リーダーシップ」(〃)
・「1分間マネージャー」(〃)
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簡略化してはいますが、以上が当時の私の仮説の概要です。
長くなってしまったので、ここでこの記事は終わりにします。
次回でその実践をお話しできればと思います。

お読みいただきありがとうございました!それでは!