春の雪
三月十日に季節外れの雪が降ってから一週間。ソメイヨシノが咲いた。
春。別離と逢瀬の季節。
私は卒業した。学び舎も、あの人も。
一番いい思い出は、一緒にまあるいお月さまを見上げた秋の夜。
一番わるい思い出は、一方通行のメールが続いた冬休み。
逢ってくれないあの人に私は書いた。あの人に届くような文章を何度も考えて、書き直して、送った。
返事はずっと来なかった。
――進む道は別々だから。
声でも文字でもなく、あの人は気配で伝えて来た。
(ずるい。逃げてる。行かないで)
視界を揺らしながらまた書いた。止まらない涙を拭いて、読み直した。想いが言葉の奥から漏れないように書き直して送った。
返事はやっぱり来なかった。
私は時間を置こうと決めた。あの人が誉めてくれた私の言葉が、あの人の中に残ることに賭けた。
例年にない寒波が日本列島を襲った三月十日。
私は負けた。受信拒否された。
春の雪は暴れる風の下で、前後左右めちゃくちゃに降っていた。
――もう読めない。
最後の気配が、霞んで消えた。
黒雲と吹雪く嵐の下で、私はあの人を恨んだ。
そして恨みきれなかった。
(痛いのは私だけじゃないかもしれない)
降ったり止んだりを繰り返す雪を見上げながら思っていた。
一週間が経ち、くすんだ白は薄桃色と混じる白になった。
春。新たに出逢った自分と旅する季節。
(いつかまたあの人と話したい)
私は舞い散る桜吹雪の中を全速力で駆け抜けた。