積畳と喪失 | ハザマランド

積畳と喪失

 夢で老婆に説教された。
 おそらく和室と思われる暗闇の中、皺の走った横顔を行灯の微かな明かりが撫でている。
「いいか。お前は何も失っちゃいない。人生というのは積畳。積み重ねなんだ。喜怒哀楽から派生する恐怖、閑寂、憐憫。ありとあらゆる感情を、人は重ねて生きていく。私が今、暗い感情ばかりを上げた理由がわかるかい? それはね。明るいものより暗いものの方が、より多くの感覚を尖らすからさ。それに飲まれない限り、人は強く大きくなれる。
 ただし、大きな力にはそれ相応の犠牲が伴うものだ。
 飲まれるな。失ったと思うなよ。
 でないとお前は重ねた場所から落ちていく。落ちたらお前は鬼になる。
 鬼は、退治されなきゃぁならない。
 恨むな。妬むな。いじけるな。お前は重ねた。大きく重ねた。何も失っちゃぁいない」