「狼の群れと暮らした男」を読み終えました。 長編で、途中一日入院の時は他の文庫本を持って行きましたので、読み終わりが遅くなりました。

 

内容は期待に違わないと言いますか、期待以上のものがありました。

 

狼に魅せられた男の一生(半生)です。

 

1964年生まれのショーン・エリスという男性ですが、イギリス、ノーフォークの草深い田舎に生まれ育ち、少年の頃から多くの狩猟犬や野生動物と遊んでいます。

 

少年時代キツネを偏愛したりして農夫に嫌われたりしながら、動物園で見た狼に心を奪われます。

 

留守ばかりの母親の代わりに祖父母が世話をしてくれて、特に祖父から自然界の動物のことなど多くを学びます。

 

10代後半からの各種の肉体労働や、数年間軍隊の特殊部隊での激しい訓練を経てのち、軍用犬の訓練で生活を支えながら、動物園の狼飼育に携わりますが、そのころから狼の柵の中へ一人で入り、より深く狼の生態を知ろうとします。

 

その後アメリカのアイダホ州に行き、ネイティブアメリカンの飼育する野生の狼の中で暮らしたのち、ついには全くの野生の狼を求めてロッキー山脈の中に単身探索にでかけます。

 

2年に及ぶ狼との生活を続けますが、狼に受け入れられながらも疲労困憊して、ついに人間社会へと帰還します。

 

その後イギリスへ戻り、自然動物園で狼の生態調査を続け狼の習性に付いては多くのことを学び続けます。

 

彼の体験から基づく狼論は、必ずしも多くの生物学者に支持される訳ではありませんが、一方では記録映画で採り上げられ、またBBC放送やアメリカのテレビ局にドキュメンタリー番組として撮影されシリーズとして放映されたりするのです。

 

しかし狼の生態解明に全てを捧げた身としては、私生活の面では決して恵まれたものではありませんでした。

 

最初の結婚相手とは4人の子供に恵まれますが、狼との生活を優先するばかりに家庭とは関わりの薄い生活をし遂には離婚、またその後狼研究に助力してくれた恋人は、余りに過酷な生活で身心共に疲れ果てて離脱して行きます。

 

それらに対して後に主人公の後悔の念が語られていますが、当時は本人も身心共にボロボロになるまで、危険な狼との生活を続けていたのでした。

 

彼の行動から生まれた自然界の生態学からしますと、あらゆる動物は横のつながりから、それぞれの存在が増え過ぎずまた絶滅することなく保たれて行くように成っているようです。

 

狼が居れば、作物を荒らす小動物は増え過ぎず、狼に被食されることによって、適正な数を保とうとする本能が出現して行く。

 

そして本来狼には、人や家畜を捕食する本能は元々無いのだ。という事なのですが、人類が狩猟生活を送っていた時代とは違い、現代の人類が荒廃させた原野や森林を見る時、世界的な狼の生息地域の減少は自然の流れとも言えるのかも知れませんね。

 

本を読んで、もし日本に日本狼が未だに生息していたら・・・と考えました。

 

そうしましたら、イノシシやサルや、アライグマやキョンや鹿の作物被害は、現状とまた違った形になっていたでしょうし、熊の出現も変わっていたかも知れないのですね。

 

しかしこの狭い日本の中では、それらイノシシやサルや熊が生き延びていて、狼は明治初期に絶滅しているようですから、そこには何らかの狼と人にまつわる要因があったのでしょう。

 

本の中である一つの話に関心がもたれました。 

 

或る自然動物園に、放し飼いにされた狼の群れ5頭程が居ましたが、何年も子供が生まれません。

 

そこで主人公は、毎日遠く離れた所から他所の狼の遠吠えをテープで流します。

 

毎日毎晩スピーカで遠吠えを聞かせ、近くにライバルに成り得る狼の群れが居ることを知らせるのです。

 

そうすると主人公の予想通り、自然動物園の狼の中の一頭が妊娠し、4匹の子供が生まれるのですね。

 

近くのライバルに蹂躙されないよう、群れの勢力増大を図る本能からの行動のようなのです。

 

恵まれた自然動物園の中の単独群の生活では、仲間を増やそうとする本能も希薄になるようなのです。

 

ふとこれを人間社会に当てはめて考えてみました。

 

世界情勢が不安定なほど、子供の数は増えるのか? 隣国の脅威が強い程その国の子供の数は増えるのか?

 

平和が続くほど少子高齢化は進むのか? そう言えば戦時中は、産めよ増やせよ、などという国是が有ったようですが・・。

 

北朝鮮の隣の韓国の少子化の例もありますし、これは短時間で考えてみても結論は直ぐに出そうにも有りませんね。

 

その他狼の群れのリーダーには、雌狼が君臨していることが多いようにありました。

 

雄はその下で働かされていて、狩りの作戦も雌主体の場合が多いようなのです。

 

そして雌は繁殖の手段として、最も相応しい雄を選ぶのですね。面白いことに乳母役も居るのでした。

 

この付近は人間と比べるのはちょいと難しい所もあるようですね。

 

久しぶりに濃密な、人間も含めた動物記を読むことができました。