恩田陸著「夜のピクニック」は最後まで読めませんでした。 それでもかなり努力して?読んでいたのですが、やはり高校生間の物語に終始していれば、そこにはもう入り込める年齢では無くなっているようです。

 

恩田陸さんの本は、以前「蜜蜂と遠雷」をとても楽しく読んでいますが、その本は、わたしの好きな音楽そのものがテーマとなっていて、しかもその中のまたピアノ演奏が全編主となる作品ですから、今回とは全く異にする内容で、その時には自然に入り込めたのでした。

 

ただ高校生の男女間の物語を読んでいる最中に不思議な事が起きました。 夕方或る年配のお客さんが来ましたが、何となく落ち着いた雰囲気の男性だったので、帰り際ふと話しかけてみました。

 

お客さんの乗って来た自動車が懐かしい型のワーゲンでしたので、昔何度か乗せて貰ったことの有る話から始まりましたが、その内にお互いの年齢の話になりました。

 

まずその方からわたしの年齢を訪ねてきましたので、答えたところ、その方は昭和19年生まれというのです。

 

「それじゃあ同級生でしょうね・・わたしは早や生まれですから・・」と言いますと、ちょっと事情が有ったらしく言葉を濁されました。

 

わたしに「それで、K高校卒業ですか・・」と聞かれますから「そうですよ、お宅さんもですか・・」と聞きましたが、やはり途中病気で高校を休んだことなど話されて、高校は休学したのち二つの高校へ転校したことなどを話されました。

 

しかし、生まれ育った海辺の町の他の同級生のことは良く憶えておられました。

 

(以下全て仮名です) 「K高校なら、私の町の森下や渡辺や河野を知ってるでしょう・・」と言われます。

 

「森下は知っていますが・・他は・・・」と答えたあと、海辺の吉野町から登校していた同級生の名を聞くうち、勢いでふと皆川さんという女生徒のことを聞いてしまいました。

 

「あぁ皆川さんは7年ほど前に亡くなられたようですよ、真面目でおとなしい人でしたけどね」

 

「そうなのですか・・・」と返事をしましたが、少なからずショックを受けてしまいました。

 

わたしの通った高校は進学校でしたから、皆顔色を青くして、修学旅行も体育祭も文化祭も無い勉強一筋という校風でして、男女間の付き合いというものは皆無に近かったのですが、そんな中で多少は男女間で話をすることも有ったのです。

 

わたしの場合は、2年生の頃朝早く登校して皆川さんと話すことが一つの楽しみでした。

 

しかしそれは誰か他の生徒が教室へ入ってくるまでのことで、一人でも他の生徒が来ると、お互いなにくれもない顔で、教科書を開いてみたりしていたものでした。

 

3年生に成ると、彼女とはクラスが変わり、当然話をすることはありませんでした。

 

そのまま二人は何事も無く卒業したのですが、わたしにとって高校時代を思う時には、何時もパっと明るい光の中に皆川さんの姿が浮かんでくるのでした。

 

「夜のピクニック」を読み始める時、「自分の高校時代を思い出しながら読むことにしましょう」などと書きましたが、思わぬことから、高校時代の一つの明るい思い出が、現実の世界へと引き込まれてしまうことに成ってしまいました。

 

このトシになりますと、同級生の不幸はもう何度も聞いて来ましたが、人によりやはり特別の思いをすることは、何十年経っても有りうるものなのですね。

 

今度は高橋治著「別れてのちの恋歌」という、受賞作品中心選別読書のこの機会で無ければ、とても手に取ることの無い題名ですが、まぁ一応読んでみることとします。

 

さてどうなりますか。

 

野菜の収穫が始まりました。

こちらはまだまだです。