そんな私は、ピアノに向かうたび、いつも心に小さく残った傷が、チクリと痛むのを感じる。

 私がかつて長女に放った言葉を今でも悔いている傷だ。


 長女はピアノが上手で、小学校の頃からコンクールで何度も入賞していた。

 でも、練習が好きではなかったらしく、その事で私としょっちゅうケンカになっていた。

 そんな長女も高校生になると、勉強に部活に忙しく、ますますピアノの練習をしなくなった。

 でも、先生が大好きで、レッスンは辞めたくないという。


 でもあるとき、一週間まったく練習しないでレッスンに行くことが続いたある日、私はやんわりとだが言ってしまったのだ。

 「レジに練習できないなら、辞めてもいいんだよ。レッスン料ももったいないしね。」


 長女はしばし迷っていたが、ほどなくしてピアノを辞めた。そして、それ以来一度もピアノに触れていない。


 今の自分を見て、私はずっと後悔している。

 今ならわかる。長女はレッスンが好きだったのだ。

 たとえ練習できなくても、週に一度、先生のところに行き、おしゃべりしながら楽しくピアノを弾くひとときが、長女にとっては大切な時間だったのだと思う。


 なのに、私はお金がもったいないからなんて言って、長女の大切な時間を奪ってしまった。

 悲しかったのだろう。だから、あれ以来ずっと、彼女はピアノを弾いていない。


 なぜわかってあげられなかったのか。私はずっと、後悔している。

 それが小さな傷となって、ピアノを弾くたびに少しだけ、心がずきんと痛むのだぐすん


 ごめんね。

 親もカンペキじゃないから、人として未熟なところがたくさんあって、いくつかの失敗と後悔をやらかしているけれど、間違いなくこれもその中のひとつ。

 

 これからもずっと、この傷は消えないだろうけど、それも抱えて生きていくよ。

 そして私は、これからもピアノを続けていくよ。

 いつかあなたが、また鍵盤に触れたいなと思う日が来ることを、心の片隅で願いながら…。