この世の中から人が消える・・・

時折耳にするこの怪現象。

家出・蒸発・何らかの事件に巻き込まれる・・・

いろいろな状況が考えられる。






私はいつものように散歩をしていた。

近所の小学校の前を通った時に、子供達の話し声が耳に入ってきた。

『なぁ、聞いた?』

『何を?』

『ほら、清水んちの親父が蒸発したって話。』

『まじーーーーー?』

『まじまじ』



ここまでは、借金を苦にして蒸発したのかなぁ・・・なんて思っていた。

しかし・・・・・



『それがなぁ・・・一昨日、清水が親父と一緒に歩いていて清水んちの角あるだろ?あのポストのあるとこ。』

『おーあるある、色の剥げたポストだろ?』

『そうそう、前を歩いていた清水の親父がそのポストを曲がった所でいきなり消えたらしいんだ。』

『うそーーーーー!どこかの脇道に入ったとかじゃねえの?』

『ばーーーか!あの角曲がったとこに脇道なんかねえよ!曲がった一軒目が清水んちだろが!!』





不可思議な現象を研究している私は、この話をもう少し詳しく聞いてみたくなった。

「なぁ、君達。ちょっとその話を詳しく聞かせてくれないかな?」

『おじさん・・・誰?』

「お・おじさん・・・?(まぁ小学生の子供たちから見たら私はおじさんだわな・・・)」

「おじさんは、不思議な現象とかを研究してるんだ。もし良かったらその場所に案内してくれないかな?」

『いいよ。でも、昔からいろんなことがあってあそこには行っちゃだめって言われてるんだ。』

「いろんなこと?」

『そう、おばあちゃんが言ってたんだけど、あそこは事故が多いんだって。だから近づくなって。』

「ふーん、じゃあ近くまででいいよ。」




ということで、近くまで案内してもらった。

そこは小学校から5分程度の場所だった。

なにも変わったことはない。

(さぁて、近所の人に聞き込みしてみるか・・・)

清水君のお父さんがいなくなった交差点付近の住民に聞き込みを開始してみる。

しかし、いろいろと聞いているが誰一人として事故や不思議な現象については首をかしげる。

現場の色の剥げたポスト。

その角を曲がる。

なにも無い。

曲がった場所にはすぐに【清水】という表札のかかった家がある。

一昨日のことらしいから、今は本人には聞けないな・・・





ふとその先のお寺が目に入った。

あそこで聞いてみるか。





小さな古そうな寺だ。

「あのぉ・・・すみませんが・・・」

『はい、なんでしょう?』

その寺のご住職に話を聞いてみた。

『あぁ、神隠しのことじゃろ。』

『角を曲がったところで祠を見なかったですかの? 昔からこの辺りは神隠しが多くての。

昔の人達は恐れて祠を建てて神を祀ったということじゃ。』

「神隠しですか。」

『はい。なぜかあの角では神隠しが多い。人・物いろいろとな。』

「物?物もなくなるんですか?」

『実はな、私にも覚えがあるんですが・・・3年ほど前、檀家さんのお宅へお経をあげに行った帰りに、角を曲がった所で体がふぅっと軽くなったような気がしたんです。その時、手に持っていたはずの経典が私の手から風呂敷ごと消えていたんです。』

『世の中には説明のつかないことが、いろいろとあるものです。』




そうか・・・他にもこのような経験をした人がいないか聞いてみよう。

ご住職にお礼を言って私は寺を出た。

帰り道、現場の祠をもう一度確認しようとすると、そこには人だかりが・・・

「どうしました?なにかあったんですか?」

私は駆け寄りながら周りの人に尋ねた。

人を掻き分けながら現場をみた私は絶句した。

事故だ!

「誰か救急車を!」

酷い惨状だ!

運転手は運転席でぐったりとしている。

「おい!大丈夫か?今救急車が来るから頑張れよ!!」

そう言って近寄ってみた私は再び絶句した。

あるべき物がない!

運転手の頭部がないのだ!

車はフロント部分はぶつかった衝撃でぐちゃぐちゃになっているものの、車の屋根やドアには壊れた跡ががない。

いったいどういうことだ?

しばらくして警察がきたが、警察官達はなにかを捜している。

そうだ、この運転手の頭部を捜しているのだ。

いったいこの場所には何があるというのか?







それから数日。

私は、この場所を幾度と無く訪れている。

何が原因なのか?

この場所にはいったい何があるというのか?




結局のところ、運転手の頭部は未だに見つかっていないらしい。

ポストの角を曲がる・・・祠がある・・・

この場所を訪れはじめてから1ヶ月が過ぎようとした頃だろうか、いつものようにポストのある角を曲がり、祠の前まで来た時に異変は起きた。

何かが肩に落ちてきた。

然程重いものではなく、肩にあたって地面に落ちた。

私はそれが何か確かめようとしゃがみこんで辺りを見回した。

そして黒い厚手の紙のようなものを足元に見つけた。

私はそれを拾い、持ち帰って調べることにした。






厚紙に黒い布・・・金糸の花柄・・・

どこかで見たような気がする・・・・・

引きちぎられたような痕があり、なにか文字のようなものが見える。

しかしその文字がなんなのかは今の所わからない。

ん~・・・なんだろう・・・それにどこからそれが落ちてきたんだろう・・・・・






数日後、もう一度ご住職の下を訪ねてみた。

念のため、先日の厚紙を見てもらうとご住職は驚きを隠せない様子だった。

すぅっと立ち上がったご住職は、ご本尊の前の経机からなにかを取り上げ、こちらに持ってきた。

「あっ!!」

思わず私は声を上げてしまった。

これだ!

ご住職が手にしたのは、一冊の経典だった。

経典の表紙は、厚紙が使われていて黒い布に金糸で蓮の花の刺繍が施されている。

同じだ!まったく同じものである。

般若心経の【般】という字が読めなかった文字である。

そして、ご住職はこの表紙の切れ端が自らのものであると断言した。

自らの写経にご住職本人が選んだ布を纏った表紙。

そう、これはご住職だけのオリジナルだったのだ。

しかし、ご住職の話によると、その経典をなくしたのが3年前。

それが今になってなぜ?

思い返すと、ご住職の角を曲がった時に感じた体がふぅっと軽くなる感じ・・・という言葉がとても気になる。

ご住職も私も、この不思議になんとも言えぬ後味の悪さを感じた。







そして数日後、いつものようにポストの角を曲がり、祠の前まで来た時・・・

「う・うわっ?なんだこれ?  か・体が動かない!!」

金縛り?

いや、違う・・・

なにか細い筒状の物の中に閉じ込められたような窮屈な感じだ。

と思った瞬間・・・

その筒ごと頭の方が引っ張られている・・・

か・体が浮き上がる・・・

その後、地面に叩きつけられた私は、気を失ってしまった。







今日はこの辺で・・・・・

続きはまた今度。