昨日のレスリング全日本選抜選手権を見ました。

 

 吉田沙保里選手を抜き、“日本女子最強”とも言える伊調馨選手が来年に迫る東京オリンピックで5連覇の夢を賭け決勝戦に挑んだのです。結果は、姉妹で東京オリンピック出場を目指す川井梨沙子選手に惜しくも2ポイント差で敗北。オリンピック出場を決定づけることが出来ませんでした。

 

 勝負のアヤは、一瞬に賭ける勇気と判断力でした。

 

 

 

(産経新聞 6/16 22:43配信)

『レスリングの全日本選抜選手権は16日、東京・駒沢体育館で行われ、女子57キロ級決勝で五輪5連覇を目指す伊調馨(ALSOK)は川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)に敗れ、2020年東京五輪予選の世界選手権代表決定は7月のプレーオフに持ち越された。

 

 「勇気が足りなかった。ひるまず自分も前に出ていれば展開も変わっていた」。世界選手権の切符を取り切れなかった伊調は攻撃の積極性に欠いたことを敗因に挙げた。持ち味の攻めるレスリングに徹した川井梨とはまるで対照的だった。

 

 伊調が悔やむのは第1ピリオドだ。序盤から組み手争いが続いたが、先に消極的として1点を失った。五輪を4連覇している伊調なら攻めなければ勝てないことは承知の上。だが、「怖いのもあるし、(点を)取りにいくとリスクも負う」。不用意にタックルにいくと、カウンターで返される可能性もある。

 

 伊調は世界女王の川井梨と自身を比較し、「技術は変わらない」と認める。逆転勝ちした昨年の全日本決勝を振り返り、「梨紗子も気持ちの面で負けたと思っていたはず」と心情を推し量る。事実、川井梨も今回の決勝後「勇気の問題。気持ちで負けたくなかった」と語っている。

 

 伊調は「次が本当の勝負。前半から取りにいくと流れもつかみやすいし、ワンサイドな試合展開になる。それが理想」とプレーオフを思い描く。3週間後も果たして、勇気の勝負になるか』

 

 

 

 <勇気>は常に敗北と裏腹に存在します。

 

 記事にもある様に、伊調選手は試合開始当初からほとんど攻めることが出来ずに相手の攻撃を待ち、カウンター攻撃の機械を狙っている様でした。

 

 一方、天皇杯で試合終了10秒前に伊調選手に逆転負けを喫して悔し涙を流した対戦相手の川井選手は、試合開始から雪辱に燃え積極的に攻めまくりました。

 前後半3分ずつのレスリング競技ではそうした積極性が勝利への要決定的素になる事を川井選手も伊調選手も知り尽くしていたはずです。

 

 もし二人に差があったとすれば、オリンピックで4連覇を達成した<絶対王者>の地位にいる伊調選手は“負けられない!”という守りの気持ちが強く、階級を変えて伊調に挑んだ川井選手の方は、伊調選手に勝たなければオリンピックに出場できないという、“何としても勝つ!”というアグレッシブさの違いだったのではないかと思います。

 

 勝負事ではこの差が決定的な分岐点になります。

 

 積極性に欠けているという判定で先制点を許した伊調選手は、後半は王者の意地を発揮して攻め続け、試合終了間近には逆転したのではないかと思えるほど僅差にまで迫ったのです。

 

 要するに、最初から機を見て敏に攻めていれば勝っていたのではないかと、試合を見ていた多くの人が感じる様な最後でした。

 

 但し、昨日の試合では最終的にオリンピック出場が決定したのでは無く、7月のプレーオフでいよいよ決着をつけることになります。

 そうした意味では、惜敗したという<悔しさ>を昨日の試合で全身で味わった伊調選手。7月の戦いは、正に瀬戸際に追い込まれ、不退転の決意で臨まねばならない最後の勝負になった訳です。

 3年前に4度目の栄光を掴み、ある種、燃え尽き症候群状態にあった王者が、再びゼロスタートでオリンピック出場に挑む事が出来る条件を掴んだという見方も出来るでしょう。

 

 益々、女子レスリングが楽しみになりました。