昨日は土佐礼子選手のマラソン棄権に関する考察を記事にしました。

 彼女は本当にマラソンを完走するだけの自信があったのか?
 本当に走り切れる可能性はあったのか?
 陸連は状況を把握していなかったのか?

 ・・と。

 ところが、我が日本チームの途中棄権よりも遙かに大きな“事件”となったレース棄権が昨日の110�ハードルで起きました。

 競争前に棄権したのは中国の英雄・劉翔選手です。

 スタジアムの全ての観客が金メダルを期待する劉翔選手は喚声の中、トラックに現れました。 一度はスタートラインに立ち走る様子を見せたのです。但し、何処か変調を来していることはその表情から分かりました。

 そして、フライングスタートで走り出した劉翔選手はすぐに右足を引きずり、太ももに貼ってあったゼッケンをはぎ取るとそのままスタジアムの中へ引き返してしまいました。

 中国の人々にとって劉翔の金メダルは今まで取ったどの金メダルよりも価値観があるものではないかと言われます。
 棄権後のサイト上の騒動やコーチの会見で見せた涙などを見ると正にその通りのようで、彼の棄権がどれほど中国国民を失望させたのかよく分かります。

 先ほど見たニュースでは、試合前に劉翔がスタジアムの壁を右足で何度も蹴る姿を映していました。アナウンサーは「思い通りにならない苛立ちを示していた」との説明をしていたのですが、私にはこのシーンが“疑惑のシーン”と見えてしまいました。

 劉翔の棄権から30分後に行われたコーチの記者会見では、彼が二日前の練習で7年前に痛めたアキレス腱の古傷を再発させた。
 彼は命がけで金メダルを取るために頑張ってきたし、レース直前まで治療を尽くしたが駄目だった、と涙ながらに語っていました。

 では何故、事前に彼がケガをしており走ることが無理だと発表しなかったのか?
 何故、コーチは大泣きして劉翔をかばったのか?

 私がここで言う“疑惑のシーン”とは、劉翔が痛みを装っていたという事ではありません。
 劉翔が痛みを公表できなかった何らかの理由があったのではないかという疑いです。

 例えば産経新聞に以下のような記事があります。



(産経新聞 2008.8.18 20:24)
『中国陸上のスーパースター劉翔が18日、男子百十メートル障害の予選を棄権したことについて、中国の大手ポータル「新浪ネット」が行った緊急調査では、約33%のネットユーザーが「理解する」と投票しているのに対し、ほぼ同数の約31%が「理解に苦しむ」と厳しい意見を示した。

 劉翔の雄姿を一目見ようとするファンで今大会のチケットは同種目開催日が最も人気を集め、定価400元(1元=約15円)のものが、闇では1万元以上売られていた。

 「練習に専念せずタレント活動ばかりしているからだ」「体調管理はスポーツ選手の基本中の基本」などと批判の書き込みが各ネット掲示板に寄せられており、「負けるのが怖いから仮病したのでは」といった意見も。劉翔のゼッケンが「1356」であることから、「中国の13億人と56の民族を背負っている」と解釈する人もおり、「中国の名誉のためにもあきらめてはいけなかった。はってでもゴールまで行くべきだった」といった意見が多数寄せられた。

 市民から厳しい意見が相次ぐ背景には、劉翔の高収入とセレブな生活ぶりにあるとみられる。中国メディアの報道によれば、アテネ五輪での金メダル獲得後に商業活動が増え、自動車、不動産などの広告収入だけで8000万元に達した。高級外国製自動車を乗り回し2億円の豪邸を購入したことなども話題となった。

 「北京五輪に備えて練習に専念すべきだ」との意見は、以前から寄せられていた』


 劉翔が億万長者となり、セレブな生活を送っていたことは事実でしょう。

 しかし彼が地元・中国で行われるオリンピックで勝つために本気で練習をしていなかったと言うことは無いでしょう。
 突然の棄権という事態に彼のファンやそうでない者も含め、多くの人々が戸惑い、怒りを覚えたのは仕方ない事でしょう。
 
 でも、劉翔がだらしないからだという見方は余りにも表層を追いすぎです。
 
 それよりも上記の記事にあるように、劉翔見たさで高額なチケットを購入した人たちがいると言うことは、「劉翔の名前」で儲けた者がいると言うことです。
 もし彼が二日前にレース出場への辞退を告げていれば、彼だけが目的でチケットを購入した人達は払い戻しを請求するでしょうし、劉翔の名前で一儲けしていた者は儲け分が減ると言うことを意味します。

 出走前にあれ程、痛い素振りをしておりスタート直後に足を引きずっている劉翔が本気でレースをしようとは思っていなかったと思います。
 むしろ、棄権する事を選ぶよりは事前に出走辞退を申し出たはずです。

 此処からは私の推測です。

 劉翔は辞退を申し出たが、彼の名前で一儲け企んできたお偉いさんは彼の辞退を許さなかったのではないでしょうか。
 例えばイギリスにはブックメーカーという博打の胴元がおり、オリンピックのレースも多額の金を賭ける博打のレースになっていたはずです。
 カジノのスポーツブックも同様です。

 世界中の中国人にとって劉翔は間違いなく英雄でしょう。
 その英雄が地元の中国で走るのです。恐らく世界中で数多くの中華系の人々が劉翔に賭けていたに違いありません。

 もし、劉翔が足を故障しているという情報が事前に漏れていれば、この賭けは成立しないでしょう。
 しかし出走直前に足を故障して棄権となれば・・・きっと彼が走らないことを知っている者、それらの者から情報を得た者にとっては大きな儲けを手にする可能性を得ていたはずです。

 劉翔が痛い方の右足で何度も何度も壁を蹴っていた姿には、政治力や権力、あるいは暴力団の
裏の力でがんじがらめにされた「英雄」の苦悩があったのではないか・・・と思えるのです。

 日本と中国の有名選手を見舞った途中棄権。

 もしかすると、程度の差こそあれ両者共に自分だけの意思では事前に辞退できない事情があったかもしれませんね。