『実は昨日、今月いっぱいで私の事務所を退職したいとの
申し出を受けました。
今月の現場をやり遂げて退職するつもりでいます。
理由は、「私(妹さん)が在籍しているとレコード会社から真田事務所
が外されて仕事が全てなくなってしまうのでそのような迷惑はかけたくない。」
というものでした。』
前の日の状態が良かったから次の日の状態が良い、という保証が無いのが妹で
真田さんは僕に昨日のメールを送ったあと、それを思い知らされたようだった。
期待通りにうれしくないことを、予想通りに予想外のことをするのが妹の病気だと
伝えると、すっかり真田さんは自信を喪失しているようだった。
スイッチが入った妹は昨日の現場でアシスタントにも関わらず、リハーサル時に
アーティストを怒鳴りつけたという。話を聞いているだけで恐ろしい。
もちろん所属レコード会社からクレームが入るのだが、だからといって
いきなり辞めるって話にもならない、ような気もする。
まず、まともであればアシスタントがアーティストを怒鳴りつけるなんて事態は
考えられない。しかしすいませんと謝れば、以後気をつけてって話になると思う。
要は妹は謝る気なんてない。悪いとは思ってない。
一見、責任を取っているように見えるが、こういう「辞める」は僕から見れば
逃げ以外のなにものでもない。
ここから真田さんに対する妹のメールは迷走する。
『皆さんの気持ちを考えると辞めるというのは性急な気がしました。
説得してくれた皆さんのためにも、考え直そうと思います』
少なくとも真田さんは妹が辞めることについて妹と話をしていない。
真田さんの会社の社員も妹からそんな相談は受けていない。
第一「辞める」といったメールから「考え直す」といったメールまでの
時間は夜中の数時間。みんな寝ている。そしてその数時間後、
『真田さん、三村君に何をしたんですか?見損ないました。』
三村君は真田さんの会社の社員だそうだ。しかし真田さんは昨日、三村君には
会っていない。何もしようがないから何もしていない。しかし真田さんは
妹からの信頼を失った。
もうこの会社にはいられないな、そう僕は感じた。