病院に向かう最中、車の中で妹は繰り返し、

 

「あんまり、光を強く当てないで!チカチカするし頭痛がする!」

 

夜、車内でライトをつけている者は誰もいない。何を言っているのか?

初めは全く分からなかったが、おそらく妹は対向車のライトが当たる度に

そう感じているのだ、と気がついた。

 

ふと思う。双極性感情障害ってそういう病気だっけか?

そう不安を感じ始めると、逆になぜか冷静に妹を観察することができた。

 

そもそも、妹が僕らの前に姿を現したとき、妹は手ぶらだった。

財布すら持っていない。どうやってオペラシティから自宅のマンションまで

戻ってきたのだろう?

 

そしてオペラシティで「錯乱した」という報告を受けてから確保される約5時間、

彼女は一体、どこで何をしていたのだろう?

 

このミステリーの解明には彼女自身にまったく記憶がないため、パーツパーツで

妹とこの時、関わることになった人々の証言を繋ぎ合わせるまで時間がかかった。

 

しかし車中で僕や母は妹に

 

「どうやって帰ってきた?」

「今まで何をしていた?」

「荷物は何か持っていなかったのか?」

 

と質問を繰り返す。

 

「記憶がない」

「荷物はとても重かった」

「ひたすら歩いた」

 

ひたすら歩いても妹のマンションまでオペラシティから5時間で着ける距離にない。

「重かった」という荷物が全く消えている。

これでは泥酔したオヤジと変わらない。

 

確保に至る経緯は前回より負担は少なかったが、久しぶりに目にした妹は

病状が良くなっているようには、まったく思えなかった。