妻はふくよかで、その体格のせいか穏やかに見えるがその実、
不幸を見つけるのが趣味で常に人の幸福をうらやましげに見る傾向があった。
その分、得た幸福をとても大事にしているようにも思える。
 
2人の部屋には2人の写真がたくさんあった。
趣味の問題だから心の中でしかケチをつけないが僕なら部屋に
自分の写真も妻の写真も飾らない。人が訪れたとき恥ずかしいから、もある。
 
もちろん、それは人類の許容範囲で妹や島田くんのように太陽系レベルの理解を
必要とはしない。そういう人もいるのだろうと思う。
 
島田くんがまだ地球上にいるころ、よく妻の話をしてくれた。眉唾かもしれないが
今、こうして対峙してみると、分かる気がする。
 
僕の妹の話は笑えるが自分の夫の話は笑えない。それが世の中の摂理かもしれないが
普通、同じ境遇にあれば、自分の話が笑えなければ人の話も笑うことを
ためらうはずだ、と、思う。
 
もしくは実感ができていないのかもしれない。頭の中でこの病気に対する
認識ができつつあっても、イチイチ体験しないと分からないのがこの病気だ。
 
今、自分は不幸のまっただ中にいる、と妻は思っている。しかし僕からみれば
妹より幾分ましだ。そして不幸のマグマにどっぷり浸かってとろけてしまう暇が
あれば、やらなければならないことがいっぱいあるはずだ。
 
島田くんの人間関係、仕事、そして赤ん坊へのリスク管理など妻が手を打たなければ
ならない。それは僕にはできない。根本的に僕は部外者であり、法律的にも
配偶者がいれば配偶者が様々な権利の優位性を持つからだ。
 
でも今の彼女はなぜ私がこんな目に遭わなければならないのか?と
嘆いてばかりいる。でもそれも仕方ない。なにせ地球人の予想を超える事態が
起こるから想像すらできない。
 
「織部さん、散歩に行きたい」
 
島田くんがそういうので近所で評判のドーナツ店に行くことにする。
 
「じゃあその前にシャワーを浴びてもいいですか?」
「シャワーも今日3回目よ!」
 
妻が怖々、震えたように言う。まあ、つい先日までまともだった夫が
突然こんなじゃ、気味が悪いのもよくわかる。
 
「ついでにここの電球切れているからそれも買ってきてくれる?
 分かる?ここの電球よ。分かる?」
「うん。そのかわりタバコも買ってきて良い?」
「いいよ。でも電球もお願いね」
 
何が「その代わり」か分からないけど、まるで老人か、初めてのお使いレベルだ。
結局島田くんは妻から1000円札とイカレた電球を受け取り家を出る。
 
ドーナツ店に向かう道中島田くんが口を開く。
 
「あいつの前では言えませんでしたけど…」
 
まだ秘密があるのか?
 
「あいつ…うつ病だと思うんです」
 
妻が鬱になりまして?