何よりも、なりは成人男性なのに精神は磯野家のカツオ以下と
生後5ヶ月の本物の乳幼児を抱え街に出てしまった島田くんの妻が心配だ。
とにかくすぐタクシーに乗り家に戻ることを忠告した。
僕はすっかり仕事が手につかなくなった。
まず四谷三丁目にある心療内科に電話する。ここの医院長とは仕事の関係で
面識があった。うつ病患者の再就職や復職などのリワークにも力を
入れているクリニックだ。
手短かに事情を伝えると19時であれば直接、医院長が診察してくれるという。
残念ながら19時であれば僕も間に合いそうだ。
僕は島田くんに電話をするが出ない。妻に電話したところ、妻が出たが
すぐに島田くんに奪われた、ような気がした。19時の予約を伝えると
「あははは。織部さん、やっぱりコーディネーターだ。あははは」
もちろん冗談を言ったつもりはないし、何がおかしいのか分からない。
「色紙とマジックを買いましたよ!」
色紙とマジック?何の話だ?こっちの用件が伝わっているのか、不安になり
妻に電話を代わってもらう。妻は僕の言うことは理解できたが明らかに
怯えていた。まるで初めて会った不審人物が隣に居座っているかのように。
「来ていただくことはできますでしょうか?」
もはや仕事どころではない。今すぐ向かうことにする。
「色紙とマジックって何の話?」
「なんかとんねるずが家に来ると思ってます。」
人格は違うし、病気の出方は人それぞれで、強弱にも個人差はあるはずだが、
どんどん島田くんの様相が妹に似てきた気がする。
タクシーで島田くんのマンションの前に着くと、偶然中島くんと出会った。
呼び出され、やはり仕事を放りだして駆けつけた、という。
「どっちに呼び出された?」
「島田本人です。」
「島田の電話から?」
「そういえば番号は奥さんでしたね。」
「何と言って呼び出されたの?」
「いや、それがよく分からなくてギルティがどうとか、
マジックが細いから太いマッキーを買ってきて、とか
訳が分からなくて不安になって…」
用件が「ギルティ」と「細いマジック」と「太いマッキー」と言われ
片手に太いマッキーが入ったコンビニ袋を持つ中島くんはとても良い人だ。