妻は毎日かかってくる島田くんからの電話を心待ちにしていた。

一日に5〜6回はかかってくるという。

 

「他にする事がないから暇でかけてくるんじゃないですかね?」

 

おそらくそうではない。具合が悪い間は頭がフルスロットルで回転している。

電話の用件は要求ばかりだ。

 

「昨日、院内でカラオケ大会があってさ〜。サザンとウルフルズ、奥田民生を

 7曲歌ったよ!けっこう全力出したぜ!」

 

ご機嫌さんで楽しそうだ。

 

「でさ〜、こんど皆の前でギター披露したいからギター持ってきてくれない?」

 

知り合いを作りたくないと周囲との接触を拒絶していたはずの男が

随分と積極的だ

 

「あ、ギター持って来るときに弦、張り替えといてもらっていい?」

 

ちなみに妻はギターなんか弾けない。だから弦の張り替えなんてできない。

 

「あとハンドクリームもよろしく!」

 

よろしくされるものに脈絡もない。

 

「そんな要求に答える必要ないよ」

 

具合が悪いと物欲ややりたい事が無尽蔵で、そのくせ、次の日には

忘れることも多い。何かしてあげても大して感謝もされない。

  

事実、3日後、妻は病院を訪れた際、ギターを持って行かなかったが

文句を言われる事もなく、その事に触れさえもしなかった。

 

その代わり、欲しいものリストなるメモを渡された。そこには…

 

『修正ペン 眼鏡ケース スニーカー ブーツ』

 

「ブーツは何に使うの?」

「ギターを弾くときに」

 

なぜギターを弾くときにブーツなのか、さっぱり分からないし、

ギターを持って行かなかったことには全く反応しないくせに

ギターを弾く気は満々だ。

 

『ヘッドホンのケース』

 

ちなみにヘッドホンを島田くんは病院内に持ち入れていない。

なのにケースを必要としている。

 

『チューナー 眼鏡ケース 原稿用紙2種 単三電池』

 

「でも彼、眼鏡ケースは入院するとき持ってたんですけどね」

 

再び眼鏡ケースが登場。何かが気に入らないのかもしれない。

 

『フリクション黒の替え シャープペン0.9の芯 ギョーザ』

 

ギョーザ!!!このラインナップの中に突如、出現した

唐突なその響きに僕は思わず笑ってしまった。

島田くんの妻もうすら苦笑いを浮かべている。

 

悲しい笑いの日々が続く。