島田くんが入院した事により、島田くんの想像力から生み出される、
社会的な実害はほぼなくなった。
僕が思う社会的な実害とはアカの他人にいらざる迷惑がかかるのは
もちろんのこと、家族に対する自傷他傷も警察沙汰になる以上、
含まれている。
そういう意味で実害はほぼなくなった、と言える。入院すれば
三食飯付きだし、閉鎖病棟だから具合が悪いうちは外出しないから
行方不明にもならないし、紐も刃物も持ち込み禁止なので、公安が
見張らなくても自殺の心配もない。携帯電話もなく、連絡先が
検索できないので気軽に電話もできない。少しくらい挙動不審でも、
周りもだいたい様子がおかしいので、気にならないかもしれない。
入院で必要なものは当分、外出できないので買いに行くことは
出来ないが、買い物リストがあり、そこにチェックを入れる事で
自由に購入できる。
しかしそこで僕は妹が軽石とウエハースという入院生活にどう必要なのか?
さっぱり理解できない買い物をしていたことを思い出す。
入院時にある程度、お金を預けなければならないが、任意入院の場合、
自由に預けたお金を使えてしまうので、物欲が数珠つなぎの病人たちは
無尽蔵に使ってしまう恐れがある。
「お金は小遣い制にしたほうがいいよ」
僕の発言に看護師が同意する。
「そうですね。一日600円とか」
「600円!?」
島田くんが小遣いが足りなくなって困窮する磯野カツオのような声を出す。
しかし入院患者って1日600円も使うだろうか?
しかしある意味、特殊な患者である彼らにとって小遣いは死活問題らしい。
この小遣い制は後日ちょっとした軋轢を生む事になる。
島田くんの抗議もむなしく、僕と看護師と島田くんの妻の意見が
合致してしまったことで一日600円制度は正式に受理された。
島田くんが扉の向こうに消えたのち、僕と島田くんの妻は家路につく。
荷物があまりに重いのでタクシーを呼ぶ。
タクシーを待つ間、妻はのどが乾いた、と自動販売機にお茶を買いに行く、
そのとぼとぼ歩く後ろ姿があまりに猫背すぎて寂しさ満載だ。