看護師の男性は不自然なほど、明るく島田くんに接していた。おそらく
不安にさせまいとする配慮なのだろう。
外来のある病棟と島田くんが入院する病棟は建物が違う。
まず地下にしか降りることのできないエレベーターで地下に下り、
地下通路を使って閉鎖病棟のあるエレベーターまで行き、そこから
島田くんの病室がある階へと上がる。
この煩わしさと厳重さで、初体験の家族や患者を不安にさせないためか、
看護師は明るく振る舞っているのだろう。
「私にも一歳になる子どもがいるんですけど…」
「この地下通路にはカフェがあるのですが、カフェとは名ばかりで
職員がお弁当を食べるのに使われるばかりで…」
看護師の会話に島田くんばかりは乗り気で「ほう!」とか「へぇ〜」とか
感心したような声を出す。
妻も相槌を打ち、愛想笑いを浮かべているが、
あまりにこわばった乾いた笑いで、静かな地下通路に響く僕たちの
足音がすぐにその笑いをかき消してしまう。
エレベーターを上がると3つほど面会室と書かれた部屋があり
僕らはそこに通された。
1つだけインターホンが付き施錠された扉があり、その向こうが
島田くんが入院する閉鎖病棟だ。
面接室では、入院のためのレクチャーを受け、荷物検査を受ける。
基本的に紐やベルトのようなもの以外は持ち込みは自由だが、
いったいこんなにたくさんのCDや本をどうするつもりだろう?
すると妻が…
「ねえ、CDはいいけどCDプレーヤーはどうしたの?」
ものすごい根本的な質問だ。
「持ってきてないの?」
逆に島田くんが聞き返す。
「私?私に質問してる?」
20枚もCDを持ってきたくせにそれを聞く手段がない。
「もういいや、じゃあ持って帰って」
島田くんがぶっきらぼうに言う。妻は5ヶ月の子どもを抱えている。
持って帰るのは誰だと思っているのだろう?さらにテンションがおちたのか?
「本もこんなにいらないや。持って帰って!」
結局持ってきたCDや本の大半を持って帰ることになった。大きな旅行鞄3つのうち
2つをお持ち帰りだ。当然僕が荷物持ちにならざるをえない。
「それじゃあ行って来る」
まるで仕事に出かける亭主のような言い回しで島田くんは扉の向こうに消えていった。
扉が開き、閉まるまでの間、その奥からずっと、
「きーきーきーきー」という人間の奇声が聞こえていた。