入院してしばらくは閉鎖病棟の中から外に出ることはできないが、

徐々にリハビリ的に外出が許されるようになる。病院の外も散歩して

回れるようにもなる。そのショートコースに「様子のおかしい

レストラン」があり、患者がそこでお茶をしたりする。

 

嬉しそうにフリードリンクを楽しむ患者達を子どもは悪意なく

「様子のおかしいレストラン」と名付けたに違いない。

 

病院につくと、妻と島田くんが受付に行く。

 

「クリニックの紹介でこちらに来ました」

 

ところがその紹介状がない。まず島田くんはアウターからパンツまで

付いているポケットを全て手探りする。続いて3つもの大きな旅行鞄を

ひっくり返す。病院の受付前は簡易のフリーマーケットが広がっている。

 

こんなことは慣れっこなのか病院の受付の人たちはいたって冷静だ。

 

結局、紹介状は見当たらなかったが、ちょうどそのとき、クリニックから

病院に連絡が入っていたことが分かり事なきを得る。

 

フリーマーケットを撤収するのはどうも僕の役目らしい。

 

概ね片付くと、島田くんが再びアウターからパンツまで

付いているポケットを全て手探りしている。

 

「保険証…ですよねえ…保険証…あれ?財布どうしたっけ?」

 

続いて3つもの大きな旅行鞄を再びひっくり返す。

病院の受付前で簡易のフリーマーケットが再びオープンだ。

 

「忘れてきたんだよ!」

 

本人の価値観はともかくとして、入院にこんな大荷物を持ち運び、

紹介状も!財布も!保険証もない!

 

3つの大きな鞄より、この3つの小さな書簡類の方が必要なんじゃないか?

結局島田くんは、持って来なければならない物を忘れ、

持ってきたいものばかりを持ってきた。

 

必要なものの提出は後回しで、とにもかくにも手続きが済む。

手続きが済むと他の外来と違い待たされることなく、診察室へと

案内される。

 

その扱いがVIPだといい島田くんは満足げだが、入院の必要がある患者を

外来に野放しに出来ないだけの話だ。

 

なんにせよ、島田くんがご機嫌さんで診察室に入ってくれてよかった。