島田くんの荷物は大きな旅行鞄にして三つほどにもなっていた。

プライオリティが完全に崩れているため、9割がいらない物のように見える。

 

Tシャツがイギーポップなのもどうかと思うが、

原稿用紙はいるのだろうか?

これを機会に執筆活動をするのだという。そんなことしなくていいから

療養活動に精を出して欲しい。

 

何冊もの分厚い本は読むつもりだろうか?

何度かチャレンジしたが難解で挫折したのでこれを機会に、苦行のつもりで

読むのだという。そんなぐちゃぐちゃになった頭で読まれたら、

具合がますます悪くなりそうだ。

 

CDも何枚か入っている。他の入院患者を寄せつけないためにヘッドホンで

聞きまくるのだという。悲しくなる唄は入っていないだろうか?

音楽が病気に与える影響は分からないけど、無駄に感情を揺さぶらないで

欲しい。

 

「企画書も書かなきゃいけない!」

 

この人は精神病院で何をしに行くつもりなのか?

 

あまり口うるさく言って、病院に行くことすらごねられても嫌なので

妹が入院する際、NGだったものだけ伝える。

精神病院に入院する際、ダメなのは紐のような長い物だ。ベルトや靴ひもの

ついた靴。腰紐など、刃物はもちろん自傷の手助けをしてしまう可能性が

あるものが制限される。ヘッドホンやイヤホンもコードレス以外は

ダメかもしれない。

 

その点、島田くんはバッチリで、むしろ僕から見たらいらないと

思われる物がほとんど残ってしまった。

 

その荷物の中に名刺入れがあるのを見つけた。

 

「この名刺入れは何に使うの?」

「企画書が出来たら送らなければならないし、打ち合わせもしたい。

 あと入院して知り合った人に自己紹介するときに使います」

 

人を寄せ付けないと言っていたくせに、知り合う気は満々だ。

さらに入院先から電話なんかされてはたまらない。

 

事実、この後、入院先で島田くんは公衆電話から様々な珍事を起こす。

 

僕と島田くんが話をしている隙に妻が名刺入れを瞬時にかばんから

かすめとったのを見て安心した。

 

タクシーを呼び僕と妻とで島田くんを再びサンドウィッチだ。

あまりの大きな荷物に、その全てをトランクに詰め込む。

 

これだけ大きな荷物にもかかわらず、島田くんは財布も保険証も

クリニックからもらった紹介状も持っていないことに気付いていない。