島田くんの具合が急激に悪くなるのを感じる。
妻曰く、クリニックで見たワイドショーのトランプネタを見た後から
具合がどんどん悪くなっていったという。
仕事でパンパンに膨れ上がった頭が急に空になり、そこに入れる物を
探すかのように妄想をどんどん詰め込んでいる。
今となってはどうでも良いが、さっぱり分からなかったことを
妻に質問する。
「偶然の一致って何の話?」
「それは多分、明石家さんまのことを昨日の朝、話していたら
クリニックの帰りのタクシーの運転手さんが明石家さんまさんと
中学が一緒だっていきなり私たちに話しかけてきたんですよ。」
「道をまちがえたって話はいったい何と一致してるの?」
「えーと、確かに島田が右に曲がれ、って言ったところを
真っ直ぐ行っちゃったんですけど、確か直前に島田自身が
やっぱり曲がらなくていいって訂正したと思うんですよね。
そしたら、仕事の知り合いを見たって…。
それも見間違いだと思うんですけど。その人に見張られているって。」
「公安は?」
「その見張られているという思いからずっと家の前に
ハイエースが止まっているって言ってて」
やはりどうでもいい話ばかりだ。
あらゆることを繋げて“偶然の一致”を作り上げている。
「あ、島田がお風呂から出てきたので切りますね」
島田くんの前ではもはや電話も出来ない。
妻の電話がカットアウトされたやいなや、すぐにまた携帯に着信が入る。妻の番号だ。
「おはようございます!誓約書を書いたので織部さんに
見てもらいたいんです!」
心も体も周囲もざわついている。後ろで妻が何か言っているが聞き取れない。
「誓約書?何を約束するの?」
「まったくそんな気ないのに、妻が心配性で公安呼びやがって
僕が自殺しないように見張っている訳ですよ!だからです」
公安委員会は故人の自殺など関与しない。
それでもどんな誓約書を書いたのか?待っているがメールも
ラインも来ない。再び電話だけが鳴る。
「あの、以前、通っていたクリニックを予約しました!妻の名前で。」
「え?何で妻の名前!?」
「いやあいつ間違いなくうつ病ですよ!だから」
なぜ彼ら(島田くんと妹)は、自身を差し置いて自分を
一番心配してくれる人を病気よばわりするのだろう。