ありがた迷惑にも僕レベルになると、妹や島田くんが言う荒唐無稽な話に

いちいち動じない。理解できない話をムリに理解しようとも思わない。

なんだって週刊文春がでてくるのか?意味不明だがスルーだ。

 

しかしいかに荒唐無稽な話であろうとスイッチが入った人間はいちいち行動に

移す可能性がある。そしてたまにそれを真に受けてしまう人間もいる。

 

その点、今ここにいる僕も中島くんも妻もベクトルは一緒だ。

島田くんがトイレに立つやいなや、中島くんがすぐさまトップシークレットの中から

週刊文春宛の封書を取り出し僕が受け取り僕のバッグの中に入れた。

 

まるでプロの窃盗団まがいの仕業だが、なくなったらなくなったで島田くんは

忘れてしまう。というか一刻も早く、そんな物騒な思想は忘れて欲しい。

 

「明日クリニックに行きなよ」

 

僕がそう言うと島田くんは素直に同意した。

 

「明日、いつものクリニックに行ってみます。でも予約なしで大丈夫かなあ」

 

通常、心療内科の外来には予約が必要不可欠だ。しかし急を要する場合、

事情を説明すればどこか時間を空けてくれる場合もある。

島田くんに、ではなく妻にそう説明する。島田くんは知っているはずだから。

 

そこに島田くんのお母さんがやってきた。やはり島田くんを心配して。

このお母さんはかつて島田くんが学生のとき暴れる島田くんを制し、

病院に入院させた経験を持つ強者だ。

 

島田くんのお母さんはとても明るい人だ。気さくで息子がこんな状況でも

僕らに軽く冗談を飛ばし、カラカラと笑う。そんなお母さんを島田くんは

 

「馴れ馴れしくて図々しい」

 

と腹を立てる。島田くんの馴れ馴れしさや図々しさは多分母親ゆずりだ。

しかし嫌みがないのがこの親子の魅力でもあった。

 

お母さんと僕と中島くんはそれぞれ電話番号を交換し、僕は島田宅を

後にする。毎日いったい何のためにここに来ているのか?成果の

乏しさにむなしさを感じるが、きっとそういうものなのだろう。

 

日中は島田くんの家で、夜は携帯電話でことが進む。

珍しくラインではなくショートメールに着信があった。

島田くんのお母さんからだった。

 

「本当に脆弱ですいません。ご迷惑をおかけします。

 仕事でなにか迷惑をかけていませんか?」

 

この母親は島田くんのように馴れ馴れしく図々しいばかりではなかった。

僕は島田くんのお母さんに電話してみる。

 

「実は島田くんのやっている仕事には全く絡んでいないんです。

 ジャンルも全く違うし。ただ人づてをたどれば、彼の今関係する会社に

 たどり着くことができるんですけど」

 

お母さんも島田くんの仕事がスイッチを押させた原因と考えていた。

 

「勝手ですけど、今すぐ今の仕事辞めてほしいいんです」

 

そもそも立ち上がっていない仕事なのでたぶん、それは簡単だ。

問題は僕からどうやってその会社に伝えるかだ。

 

「それはお母さんの意思として先方に伝わっても構いませんか?」

「構いません」

 

お母さんは即答した。

 

なんだか妹と同じような展開に思えて気が重いが、僕は倉持社長に

電話することにした。