「病気はお前だよ!」
思わず声に出してしまった。
かつて妹は母をうつ病よばわりし、自分の病気を棚上げしようとした。
「母が鬱で疑心暗鬼になり私を病気ではないかと疑っている。
心配なので母を見てあげてほしい。」
このときの妹にそっくりなロジックを島田くんは使った。
最悪だ。仮に具合の悪くなった島田くんなりに妻のことを
心配しているのかもしれないが、本気で妻の方を病院に連れて行き
病名を付けさせかねない。そんなことはさせられない。
「彼女は間違いなく普通だよ!お前がおかしいよ」
普通ってなにさ?と自分でも思ったが感情が言葉を
選ばせなかった。妻はどう見ても病んではいない。
「そうですかねえ」
僕にとって島田くんが妹よりタチが良いと思えるのは
素直なところだ。妹ならここからMAX反撃が始まる。
島田くんはひとまず持論を撤収した。
ドーナツは僕がおごるとして、島田くんには
握った1000円札で買い物をする命題があった。
まず彼はタバコを買う。残高は520円だ。
残りで電球を買わなくてはならない。
続いて僕らはドーナツを買う。品物を用意してもらう間、
島田くんが言う。
「僕は倉持社長のところにはあまり行かない方が
よいと思っているんです。」
その口調は穏やかで昨日、倉持社長のところに
突然訪れたことなど何処吹く風だ。僕もその風は流す。
「なんで?」
「フリーになって儲けて良い服を着ている僕を見たら
あそこの会社の若い子がみんな僕に憧れちゃうって
みんな会社を辞めちゃうと思うんです」
よく見ると彼が着ているアウターはヴィヴィアンウエストウッドだが。
にしても…!
臆面がないのか?羞恥心がないのか?謙虚じゃないのか?
元々、この男にはないものが増幅され振り切ってしまっている。
「ふーん」
3文字以上のリアクションを取りたくない。
真顔で言う島田くんを恥ずかしくてまともに見られない。
散歩の最中の彼との会話は途切れ途切れで、それは僕が
彼の提供する話題に三文字以上の言葉を発しなくなったためだ。
彼も1つ1つの話題にすぐ興味がなくなるのか?
次々、話題を変えた。
電球を買うはずのコンビニに島田くんが入っていく。
自動扉があいたコンビニの入口で島田くんが振り返る。
「織部さんもコーヒー飲みます?僕、飲みたいんで
世話になったから織部さんにもおごりますよ!」
なんか島田くんがかっこいい顔してる。どや顔ってやつかもしれない。
でも…
1000−480(たばこ)−400(コーヒ2杯)
…一体、電球はいくらでしょうか?