妹は退院後、作業所なる施設に通っていたがいつのまにかやめてしまっていた。
僕は実家に出入り禁止になっていたので詳細は分からないが
おそらくプライドが許さなかったのだろう。
一言で言うと妹は中心に立ちたがるが、いずれ孤立するタイプだ。
退屈な作業所で妹はそこに通う人たちと自分を区別化してしまったのだろう。
作業所で数人の友人ができたが、成果はそのくらいだった。
ソーシャルワーカーから「忙しくない雑貨店の店員」を勧められたのも
気に食わなかったらしい。焦りもある妹は段階的に目標に向かう事が
できない。一段ずつ階段を登るのではなく、10足飛びに階段を駆け上がろうと
していたにちがいない。注意を喚起すればいい?誰が?妹に?
妹に聞く耳があればよいが、阿弥陀寺の芳一より重症だ。心の目すら
つぶってしまっている。うっかり助言して反撃をくらう恐ろしさは
小泉八雲をはるかに超えている。どうせ無駄なので誰も言いたくない。
サイトウくんの支えもあって僅かばかりの自信を取り戻しつつあった妹は
自ら就職活動を始めた。
これはとてもいい事だ。これまでやる気をみせなかった妹が社会復帰を
目指している、という現状に父も母も安堵したことだろう。
いずれにせよ僕は蚊帳の外なので父や母の知らせを待つしかない。
「あの子の仕事が決まったよ!」
母の声が心なしか弾んでいた。
「何をやるの?」
「コンサートや舞台の監督のアシスタントだって!」
喜ぶ母にかける言葉じゃないので黙っていたが、
こういうのが10足飛びなんだと思う。
華やかで刺激的でやりがいがあって忙しくて、
ときに緊張感を生み出す仕事に妹は耐えられるのだろうか?
ただウチの琵琶法師に僕の不安は届くわけもない。