8年前、妹は僕によって強制的に入院させられた。

公には医療保護入院というらしい。たぶん妹はこの言い回しに納得しないだろう。

僕自身にとっても僕が妹を強制的に入院させたという事実は変わらない。

双極性感情障害とは、そう簡単に治るものではない、もしくは

完治は難しい、とか上手く付き合っていく方法を考えよう、など

多くの人や本にいろいろ言われて頭では分かっているつもりだが、

多くの騒動からの開放感か、入院にこぎつけたことは僕たち家族を

安心させた。心のどこかでこれで治る、と思ってしまっていたかもしれない。

 

社会的にいえば強制的に入院させたのは母ということになる。

まず医師の判断によって一時的に入院させる。その後、家族が家庭裁判所に

後見人を立てる申し出を行い、認められれば後見人の申請により入院させることが

出来る。それが母だった。

 

後見人になるためには裁判所、の前に法務省に出向き、妹がこれまでに後見人を

立てていないか確認、証明する必要があるそうだ。母は胃を全摘しており

体重が30キロしかない。強風が吹くとアニメのキャラクターのように

飛ばされ骨折する始末の軽さだ。そんな女性が混雑する電車に乗って

法務省にやってくる。心配なので行きだけは僕が実家に行き、一緒に

法務省に行く。ラッシュ時の電車に母が乗ったら、

それこそアメコミでトラクターにひかれた猫のように

薄っぺらのペッタンコにされてしまうだろう。

 

入院させて安心、といっても残務処理はけっこう面倒くさい。

 

妹が入院している病室は閉鎖病棟というのか、自分の意思では外に出る事はできない。

自由になるお金も直接妹に渡さず、看護師に預け、必要な分を渡す。

もっとも閉鎖病棟で3食飯付きの入院しているわけだから、そうそうお金なんて

使う事もないだろう。日用品は買い物リストなる紙があってそこにチェックを入れ

提出する仕組みだ。母は多めにと言って5万円、看護師に預けた。

母は翌日も来るといったが妹を落ち着かせるために1週間くらいは

来ないでほしいと言われた。

 

入院時の持ち物は当然制限される。携帯電話やパソコンはもちろんNGだし、

紐の付いたパンツや長い靴下もダメだ。首をくくる人がいるらしい。

 

もっとも酷い状態(入院時に妹がそれに当たるかは分からないが)だと

もっともレベルの高い隔離病室に入れられるらしい。その個室のトイレには

トイレットペーパーがない。食べてしまう人がいるらしい。

便器の中に水がない。飲んでしまう人がいるらしい。

 

そう聞くと確かに精神病院の入院は過酷だ。

さぞや妹もつらい思いをしているか、と思うと心が痛い。

 

1週間もしないうちに病院から連絡がある。

 

「預かっていたお金が足りなくなりまして」

 

閉鎖病棟で3食飯付きで、どうすると5日程度で5万円がなくなるのか?

診察や薬、入院費は別途だ。

 

実家にFAXで妹の買い物リストが送られてきた。