予約の時間は14時だった。僕は嫌な予感を払拭するため10時には
島田くんの自宅へ向かう。
案の定島田くんは病院に行きたくないと駄々をこね始めた。
「俺の親友と話してもらっていいですか?彼が同意するなら行きます。」
彼はその親友なる人物に電話する。
「俺は無罪を勝ち取らなければならないんだけど、村岡先生が裁判官で
先輩が弁護人じゃあ、どう考えても有罪になっちゃうよ!」
必死に親友に訴えている。無罪とか有罪とか、裁判官とか弁護人とか、
島田くんのオーラには悲壮感が漂うが僕にとってはバカバカしい。
そもそも一昨日、村岡先生のところに行くと言い張っていたのは
島田くん本人だ。鬱陶しいが電話を変わる。
僕は電話の主に趣旨を説明する。その場にいる島田くんにも聞こえるように。
「有罪とか、そういうのの為に病院に行こうと思ってません。
僕は彼が入院の必要があるとも思っていません。ただ、普段とは
様子がちょっと違う。安心する為にもクリニックに行って
看てもらうのが一番だと思う。もし統合失調症と診断されても、
別の病院にも行く訳だから。」
親友は島田くんと電話を変わる。島田くんは「うん、うん、そっか」と
うなずきながら話を聞いている。どうも「病院に行ったほうがよい」と
言われているらしい。
「そうか、行かなきゃだめかぁ。」
島田くんは渋々支度を始める。洗濯物を干し、最近ご執心のトイレ掃除を
始める。いつになったら支度が終わるのか?トイレ掃除を終えた島田くんが言う。
「そうだ!森ちゃんに電話してもらってもいいですか?」
森ちゃんとはいったい誰だろう。どうも島田くんの元カノらしい。
つまり過去にお母さんとともに島田くんを病院送りにした強者だ。
いつまでこの電話攻撃は続くのか?僕は島田くんをクリニックに連れて行く
自信が全くなくなっていった。