島田くんのお母さんが島田くんの自宅にやってきた。

驚いたことにお母さんはある程度、この事態を予想していたようだ。

 

「だって真理さんが心配して私に相談してきたもん。」

 

ここにきて必死に島田くんが隠してきた努力が水泡に帰していることが発覚した。

 

夜中に小学生の計算ドリルを始める夫をおかしいと思わぬ嫁がいるだろうか?

机に置きっぱなしの「真理へ」という遺書のような不気味な手紙の下書きを

読んでおかしいと思わぬ嫁がいるだろうか?

出かける度にエンドウ豆スナックが増えていく夫の買い物を

おかしいと思わぬ嫁がいるだろうか?

人の名前と連絡先が線で結ばれた謎の連絡網を夜な夜な作る夫を

おかしいと思わぬ嫁がいるだろうか?

 

島田くん、机に置きっぱなしにする癖、直そうよ。

島田くんのお尻は丸見えだった。

 

僕は島田くんのお母さんに危惧している点と考えを伝えた。

 

①スイッチが入ったとき島田くんがどうなってしまうのか分からない。

 奥さんに危害を加える可能性があるのかどうか?

②ここ数日の島田くんは過去に僕が知る島田くんではない。

③島田くんは入院を覚悟しているが僕には入院の必要があるようには

 見えない。しかしそれらをはっきりさせるためだけでなく、

 島田くんの今の状態が何なのか?をはっきりさせるためにも

 一度病院に行った方が良いのではないか?

 

「俺は病院に行くなら武蔵小山の村岡先生のところがいい」

 

先ほどまで駄々をこねていた島田くんはお母さんにあっさり主張する。

 

「病院に行くのは良いと思う。でも行くなら他の病院の方がいい。」

 

お母さんの主張は…

村岡先生がかって島田くんを統合失調症と診断した本人である。

だから今回も始めから先生は島田くんをそういう目でしか見ないのでは?

という危惧だった。

 

この人は冷静で頼りにもなるし、肝も座っている、僕はそう思った。

息子を強制的に病院に連れて行くという修羅場を一度くぐっていると

経験値が違う。僕もそういう修羅場をくぐっていたが、格が違う。

聞くとお母さんの職業は看護師だった。

 

しかし島田くんはどうしても村岡先生が良いという。

知らない先生に看られたくないと駄々をこねる。

 

「あんた、そんなに統合失調症になりたいの?」

 

親子の議論にアカの他人が口を挟める余地なんてない。

議論が埒のあかないところに入り込む。

2人の顔色を見るようにして、恐る恐るアカの他人が口を挟んでみる。

 

「まず村岡先生のところに行って統合失調症って診断されたら

 その時点で、別の病院に行ってセカンドオピニオンをもらったら

 どうかな?」

 

あっさり2人が同意してくれてホッとする。村岡先生のところには

僕が同行する事になった。

 

また、ピンクのハート恋愛野郎と喫煙室の「どっち系?」が通う

あのクリニックに行くのか…。

 

明後日は雨が降らなければいいな。