僕と島田くんは取引先の青山一丁目から会社のある千駄ヶ谷まで歩いていた。
僕はウォーキングを生業のようにしている父のDNAを受け継いでいるせいか、
歩く事が嫌いでない。おかげで僕の後輩は自分だけ電車に乗るわけにもいかず、
歩く事を強いられている。島田くんも例外ではないが、彼もまた街の景色を
見ながら過ごすことが嫌いではないようだった。
しかしこの日は様子が違う。歩きながら脂汗をにじませている。
「なんかお腹の調子が悪いんですよねぇ」
大の大人のお腹の具合など、本人の管理の問題だと思っている僕は
さほど、気にもせず歩く。有酸素運動を考えれば早歩きくらいがちょうどいいと
聞いている。気がつくと島田くんは少し内股で歩いているように見える。
「コンビニとかあったら寄ればいいじゃん」
悲しいことに僕たちは神宮外苑の中に突入していた。
あるのは銀杏並木と球場とランニングコースと。
僕と内股の島田くんはひたすら早歩きで歩く。
やがて僕らは外苑西通りへと出る。信号の向こうにコンビニが見えた。
すると目の前の歩行者用の青信号が点滅を始める。反射的に僕は走る。
走ったのは僕だけだ。島田くんは走ろうとしたが止めた。
渡り切った僕が道路の向こう側を振り返ると赤信号で立ち止まった、
より進化した内股バージョンの島田くんが弱々しく「サヨウナラ」と
手を振っていた。
たぶん、あの瞬間、全部出た。
彼はその後、後輩が全ての衣服を買いそろえ救出されるまで3時間、
コンビニのトイレを占拠し続けた。
よく会社のトイレが流されていない事があるが、それはたいてい島田くんの
仕業だと思っている。
出張で、まれに島田くんとホテルが同室になってしまう事があるが、
朝、目覚めてトイレに入ると白い容器の中は、
それ以前、誰が何をしたか一目で分かる、そのままの状態が保存されている。
僕にとっては朝、目が覚めてまず最初に目にしたものがこれということになる。
胃腸が弱いという島田くんのそれは結構な惨状だ。
島田くんにとって、というよりは僕にとって。