今から考えれば島田くんのチャレンジは的外れだったり頓挫したりすることが多い。

彼が西に向かえば、待ち人は東にいるし、南に行けば探し物は北にあった。

 

しかしそのこだわりは強く、例えば人が釣りを始めるとき、

こだわりのある人は初心者にも関わらず身分不相応な釣り竿を選ぼうとする。

島田くんのこだわりは桁が違う。彼は釣り竿を選ぶ前に

釣りキチ三平がかぶっていた麦わら帽子から探すタイプだ。

 

物書きになりたいと言って彼がまず伊東屋で入手したのは

ノートでも万年筆でもなく、消しゴムのかすを集める為の

豚毛製の高級ハケと小さなちりとり。

 

数年前、僕と島田くんは六本木のキャバクラにいた。

島田くんはその店に行くと僕が必ず指名する女性をやけに気に入った。

アフターで別のスナックに向かう際、どうしてもその女性を

連れて行きたい、と駄々をこねる。言うまでもないがこの店の払いは僕だ。

 

聞くと女性は明日朝から仕事があるので30分ほどなら付き合っても

良いと言う。仕方ないので、僕は別の女性を紹介してもらい、4人で

別のスナックへと向かう。その道中も島田くんはウキウキだった。

自分で行っておいて僕が言うのもなんだが、所詮キャバクラである。

上司の横にいる女性に執着し駄々をこね、遠慮ってものが全くない。

なぜ、こんなにも目を輝かせ彼女を見つめ出身地や住んでいるところを

聞けるのか?これが一目惚れって奴なのかもしれない。

 

スナックに着くと島田くんは彼女のためにカラオケで唄を歌いたいと言う。

島田くんは唄を入れたが、なにぶんその日は混んでいた。島田くんの唄は

5番目だ。時は刻々と流れる。

 

さあいよいよ次が島田くんの番だ!島田くんにマイクが渡される。

そのとき女性が言った。

 

「私、そろそろ帰りますね。今日は楽しかったです。」

 

そう女性は挨拶し家路へと着いた。

このときの島田くんの目。子犬の主人が出かけるときにじっと見つめる。

驚きと寂しげなつぶらな瞳。島田くんの唄のイントロが流れる。

彼女の消えた店内で島田くんの唄が響き渡った。

 

「♫いえ~い!君を好きで良かった。

 このままずっと ずっと 死ぬまでハッピー!

 バンザイ!君に会えて良かった。

 このままずっと ずっと ラララふたりで。♫」