僕の知る彼はよく眠る。
今、考えれば、彼が普段服用していた薬のせいかもしれない。
当時は何も知らないからただ迷惑な人だと思っていた。
彼は出張になるとリュックの半分の体積がそれで埋まるような
馬鹿デカい目覚まし時計を持参する。生半可な音では起きないからだ。
しかし結果的にその目覚ましは島田くんを起こす物ではない。
同室ならまだしも壁の薄いビジネスホテルだとそのけたたましい音に
隣室でも目が覚める。ジリジリいう何の愛想もない古典的な音だ。
仕方ないので僕が島田くんを起こす。結局島田くんの目覚まし役は僕だ。
我が社では一度だけ社員旅行でシンガポールに行った事がある。夕食を
社長がふるまうと言うので13人もの社員全員が周遊バスに乗った。
主だったホテルと繁華街をグルグル回る巡回バスだ。レストランに
着くと用意された13席が一つ余っている。島田くんがいないことに
レストランに着いてから気がつく。僕たちが夕食を終え、ホテルに
戻ると見覚えのある周遊バスから島田くんが降りてきた。
時間的に2周は回った計算になる。終着駅のない乗り物は彼には
とてもデンジャラスだ。
僕と島田くんは朝まで飲む。別れたのは朝7時頃だったと思う。
彼は渋谷から山手線に乗った。次の仕事は5時間後だからつらいのは分かる。
しかし島田くんは約束の時間には現れなかった。電話をすると
「すいません。今、巣鴨です」
巣鴨でいったい何をしていたのか?何もしていない。電話するのが5分早ければ
彼は池袋にいたであろうし、5分遅ければ田端にいたであろう。
山手線で5周した人物は僕の周りでは初めてだ。
駅間の距離のある乗り物も困る。新幹線で岡山に出張で向かった。
僕と島田くんは混雑した車内で並びの席がとれなかった。僕が9号車で
彼が15号車だ。岡山に着く。彼の方が端っこなので中央の階段上で僕が
彼を待つ。降りて来る客の中に島田くんの姿はない。新幹線が広島に向かって
発車する。ゆっくり走り出す新幹線の15号車の車窓に大口をあけ上を向いて
睡眠をとる島田くんの顔が僕の目に映り、そして消えて行く。
彼の乗る新幹線は岡山県境を超え広島県へと向かって行った。
県またぎで乗り過ごされるとそのロスは1時間以上。
早朝の岡山駅のコーヒーコーナーでくりかえし呟く。
「あいつの家族を遺族にしてやる!」