島田くんが久しぶりに電話をくれた。
僕の災難はいつも携帯電話から始まる。
「俺、再発したっぽいです」
なんだか、ろれつが回っていないようにも思える。
「会いたい」と言うから待ち合わせの場所や時間を決めようと思うが
島田くんはブツブツ、電話の向こう側で独り言を言う。
「でもなあ、先輩の家は犬がいるからうるさいしなあ。うるさいと頭がクリアに
ならないし…。渋谷なあ、今この状態で電車に乗る自信ないなあ。駅前はなあ、
人ごみがうざいしなあ。午前中だと起きれるかなあ。起きれないなあ。
午後にはエンドウ豆スナックを買わないといけないしなあ。」
電話の独り言ほど、放置された気分になるものはない。
しかも病気の再発とエンドウ豆スナックのプライオリティが彼の頭の中で
どうなっちゃっているのか?理解に苦しむ。
しかしなぜ僕に電話をしてきたのかは理解できた。島田くんは妹と違い、
人に好かれる人柄で友人も多い。ただ、彼がかって統合失調症を患い、
入院していた事実を知るものはほとんどいない。その事実を知る人の中で
その類いの精神疾患患者に実際に関与した経験があるのは島田くんの両親と
島田くんの元彼女、そして妹に振り回された僕だけだ。
おそらく、その経験を買われた。
僕はタクシーにのり彼の住む駒沢大学へと向かう。思い出すのは8年前だ。
妹の精神疾患に悩む僕を自らが統合失調症であることをカミングアウトし、
僕の苦境を救ってくれた。と同時に彼が統合失調症であることに心底
驚いた。驚いたが、僕はそれ以来、彼の個性の欠片を拾い集めていた。
病気か、個性か?そんなことはどうでもいい。でも気になった。
妹も面白いが島田くんも欠片を拾い集めると結構面白い。
出会いは彼が僕の会社に姿を現した事から始まる。
「島田です。よろしく!」
そう言って彼は握手の右手を差し出した。
言っておくが島田くんは新卒の新入社員だ。ずいぶんフランクな挨拶に
僕はイチから彼に社会常識を教え込むことになる。