入院は一時的に医師の判断によって決められる。その間、家族は裁判所に行き、

妹の後見人を立てなければならない。後見人が認められた後、後見人の

申請によって正式に入院が認められる、そんな趣旨だったと思う。

 

その紙に母はサインしなければならない。いや、サインするか、しないかは

母の判断次第だ。父ではダメだ。父が後見人なら、将来、少しでも妹が

おかしいと判断すれば、父は簡単に妹を入院させてしまうだろう。

一人の人間を入院させるというのはそんな簡単なことではないのだ。

やはり母がサインしなければならない。しかし母は隣で懇願する妹に

明らかにサインするのを躊躇っていた。

 

 

僕は母を励ますように言った。

 

「だめだよ。もう分かったじゃん。入院させなきゃ手に負えないでしょ。

 ここはおふくろが踏ん張らないと!」

 

妹が言う。

 

「お母さん、お願い!そんなひどい事しないで!私は薬漬けにされて

 本当におかしくなっちゃうよ!娘の人生を台無しにしていいの?」

 

妹はすでに自分で自分の人生を台無しにしている。僕はこれが妹の

再生の第一歩だと信じている。

 

「これが最後のチャンスだよ!おふくろが決めないと!」

「お願いだから!お母さん!サインしないで!」

 

母は泣いていた。手をふるわせ、大粒の涙で紙を濡らしながらサインした。

 

妹は病室へと連れられて行く。診察室を出ると妹の目に川崎さんの姿が映る。

 

「川崎さん、助けて!私、家族にダメにされちゃう!」

 

川崎さんはもうかける言葉すら思い浮ぶはずもない。黙ってうなずきながら

妹の手を握った。

 

妹は看護師に連れられ病室へと消える。僕はその姿を見送ると

踵を返し廊下を反対の方に歩く。どんどん歩く。どこに行こうとしているのかも

分からない。島田くんが後から小走りでついて来ているのが分かったが

振り返りたくなかった。

 

僕の目からも大粒の涙がこぼれる。外来の待合室には

多くの人がいたが、僕は声をあげて泣いていた。

 

正しいと信じて判断したことなのになんでこんなに悲しいのだろう?

なんでこんなに申し訳ない気持ちになってしうのだろう?

なんで後悔ばかりするのだろう?