翌日、病院で妹は赤いきつねを食べていた。
「この病院の食事は美味しくなかった。」
そう言うと緑のたぬきもぺろっと妹がたいらげた。よほど食欲があるのか、
僕が持っていたスニッカーズやカロリーメイトも全て彼女が食べた。
今日、妹を連れて帰る事が出来る、肩の荷をおろせる喜びから
僕のサービス精神も旺盛だ。もともと妹の長期入院に備えて持ってきた
梅干しも差し出すと目を離した隙に10個以上食べている事に気づき、
慌てて取り上げた。ちょっと異常な食欲に不安を感じるが、
この程度の事なら今の僕には些細なことに思える。
妹をボックスカーに乗せる。3列目の一番後ろだ。その隣に僕が座る。
ここなら2列目の座席を倒さない限り、外に出る事はできない。
2列目には山田さんが陣取る。山田さんは空港の搭乗ゲートまで
見送ってくれる事になった。妹は薬が効いているのか目はうつろで
焦点があっていないように見えるが意識ははっきりあった。
その道中で、今でも僕が忘れられない一言を妹が炸裂させる。
「山田さん、私、今度のインド旅行を通じて気がついた事があるんです。」
「なんですか?」
山田さんは振り返りもせず返事をする。
「これは忠告なんですが、インドには多くの若者が来ますよね?」
「それは日本人の事ですか?」
「そうです。今回の旅行で、そういう若者を多く見かけました。」
「はい。まあ多いですね、若い人は。」
「そういうインドに来る若者があまりに無計画に来すぎる。
気をつけた方がよい。」
思わず僕は下を向いて笑ってしまった。妹以上に無計画の人もそういないだろう。
上目使いに2列目の座席を見上げると、
山田さんも下を向きながら肩を揺らしている。少し間を置いてから山田さんが
「分かりました。」
と返事をした。すごいなあ、僕の妹は。本当に面白い。