24時間態勢の看護師と警備員、冷房とシャワー室完備のVIPルームが1泊

3万円とはこのとき初めて知った。20日以上入院していた訳だから、

それだけで60万円は下らない。いくら金の話は品がないと言われても

これまでの出費と、そしてこれからの出費を考えるとむかっ腹も立つ。

仕方なく98万円を払い、明日の出国に向け準備を始める。

 

「最も安いトランクが売ってそうなところに連れて行ってください」

 

通訳のシンさん2号に頼む。すっかり僕は質の良いトランクなんて

買う気は失せていた。滅多に手にする事がない100万円の札束が

一瞬にしてさきほど消えた。

 

安いトランクはオールドデリーというところにあった。インフラ整備が進み

清潔感が増したニューデリーの中心部に比べオールドデリーは驚くほど

以前のままだ。晴れているのに、あちらこちら汚れた水たまりがあり、

靴底にねちねちとドロが吸着していく。

 

野良犬や野良牛があちらこちら疲れ切った表情でだらだらと歩いている。

あんな犬を妹は一流ホテルの客室に連れ込んだ。とんでもない愛犬家だ。

日本人の僕に投げかけられるオールドデリーの日本語は

 

「クスリアルヨ~。ハシシアルヨ~。」

 

僕は店で二番目に安いトランクを購入しそそくさと車に乗り込む。

明日の妹のチケットの手配をシンさん2号にお願いしホテルへと戻った。

ホテルのバーでラフロイグをストレートで飲む。よくここまでこぎ着けた。

よくやった。誰も誉めてくれる人もいないから自分で自分のことを

慰労する。

 

部屋に戻ると、帰国のために荷物整理をする。明日は妹の病院に

日本から持ってきた赤いきつねと緑のたぬきを持って行ってやろう。

 

2人で一緒に食べよう。