自分の部屋に戻ったのは2時過ぎだ。昼から何も食べていない事に
気付きシンさんを誘いルームサービスでサグチキンカレーを注文する。
本当かどうか分からないが、シンさんはインドで悪い事をした
カーストの低い人はよく殴り殺されるのだと言う。
「よく我慢したネ。本当に関心したヨ。私ならあんな奴殴り殺してる」
日本人の僕にハンダを殺したいという気持ちはどこにもない。
どちらかといえば妹に呆れている。あんな奴のどこを好きになったんだろう?
この僕の発想こそが、僕がまだ病気をきちんと理解できていない証拠だ。
病気だからだ。
朝、妹が10日間逗留したホテルのオーナーが妹の売り掛けを取りに来るという。
「それにしてもコレちょっと高すぎる。ぼったくってるヨ。
こんなに払う必要ナイ。わたしが交渉スル」
確かにバックパッカー用のホテルで10日間10万円は高い。
それでも一応シンさんに10万円を渡し、ホテルのオーナーとの交渉は
一任した。
朝、朝食と食べにエレベーターで1階に降りると、目の前をホテルのオーナーが
そそくさと通り過ぎホテルを出て行った。明らかに不満げで僕にすら
気がつかない。結局、払ったのは3万円だった。宿泊料としては高すぎるのを
ホテルのオーナーは認めたがあとは迷惑料だという。ここでも物を言ったのは
カースト制度の名残りだ。シンさんはオーナーの主張を一蹴した。
しかし宿泊料が3万で迷惑料が7万ってどんなだ?油断も隙もない。
出発の時間早めにロビーで待っているとハンダがインド人スタッフに
文字通り連行されてきた。ハンダも抵抗する様子もない。憧れの日本人女性との
結婚を阻まれ、カーストの高いインド人につかまり、彼はいま恐怖と絶望の
どん底にいた、と僕は思った。
しかし彼が恐怖と絶望の淵から見ていたものは、破れた結婚への夢でも
なく、カーストの高いインド人でもなく、もちろん僕でもなかった。
彼だけが知るこれから起こる何かだ。